カブトムシの幼虫、さなぎの育て方2018年

虫好きな猫たちのために、ベランダでカブトムシの幼虫を育てる悪戦苦闘の物語

カブトムシの大きさの秘密③「同一生息地(栄養環境)では生息深度の地温の違いが”幼虫期の発育速度”と”成虫の大きさ”を決定づける」(各深度の地温は、昼夜の長さが等しくなる春分・秋分の頃に「表層=中層=深層」となり、「春から夏にかけての気温上昇」に伴い「表層>中層>深層」となり、「秋から冬にかけての気温低下」に伴い「表層<中層<深層」となる)

前回、以下のように述べた。

「有効積算温度の法則」及び「温度ーサイズ則」によれば、カブトムシの幼虫が「発育速度」を変えて「大型化・小型化」する仕組みは、以下のように説明できる。

(1)外気温が「発育有効温度帯」の上限(最高発育限界温度)に近づくほど、幼虫期の発育速度は速まり、成長率が高くなるため、カブトムシの幼虫は発育期間を著しく短縮して「小型化」した成虫へと発育を遂げる。

(2)外気温が「発育有効温度帯」の下限(最低発育限界温度)に近づくほど、幼虫期の発育速度は遅くなり、成長率が低くなるため、カブトムシの幼虫は発育期間を著しく延長して「大型化」した成虫へと発育を遂げる。

それでは、「カブトムシの幼虫の発育速度に影響を与える外気温」とは何だろうか?「変温動物である昆虫類の発育速度や大きさの秘密」を解き明かす上で、ここでいう「外気温」が何を意味するのかが、最も重要なポイントである。なぜなら、「変温動物」である昆虫は、「恒温動物」である哺乳類や鳥類と違って、「発育」に必要な「温度」を自ら作り出し調整する事は出来ない。そのため、どんなに豊富な食糧が身近にあっても「発育」に必要な「温度」が外部から供給されなければ発育出来ないからだ。昆虫にとって成虫になるまで一気に発育を行うか、一旦発育を停止して冬眠するか、発育速度を加速させるか減速させるかは、全て「外気温」次第なのだ。

それでは、カブトムシの幼虫にとって、ここでいう「外気温」とは「気温」のことだろうか?そうであるとすると、同一生息地(雑木林や養殖場)であれば「気温」も同じであるから、「外気温」が「幼虫期の発育速度」に与える影響は同じはずである。更に、同一生息地(雑木林や養殖場)であれば、幼虫の栄養環境(腐葉土や堆肥や朽木)も同じである。従って、この場合、「幼虫期の発育速度」に違いは無く、「幼虫の発育期間」や「成虫の大きさ」の違いも無いはずである。

しかし、実際は、同一生息地(雑木林や養殖場)であっても、カブトムシの「幼虫期の発育速度」には違いがあり、「幼虫の発育期間」や「成虫の大きさ」には違いが存在する。従って、カブトムシの幼虫にとって、ここでいう「外気温」は「気温」であるとは言えない。

それでは、同一生息地(雑木林や養殖場)であっても、カブトムシの「幼虫期の発育速度」に異なる影響を与える「外気温」とは何だろうか? f:id:chart15304560:20180907205825j:plain

(9月7日朝6時撮影。1匹目のオス、羽化62日目。今朝は食が細いようだ。そろそろ寿命が近づいたのかもしれない)

1.昆虫の発育速度に影響を与える外気温(「気温」「水温」「地温」)

昆虫は幼虫期に発育し、成虫期になると発育を停止する。従って、「昆虫の発育速度」に影響を与える「外気温」は、その昆虫の幼虫期の生活環境(「地上」「水中」「地中」)によって異なる(「気温」「水温」「地温」)。

(1)「地上で生活する昆虫」の場合(「外気温」=「気温」)

バッタ等の「地上で生活する昆虫」は、幼虫期も成虫期も地上で生活するため、「気温」の影響を直接受ける。従って、バッタ等の「地上で生活する昆虫」の「幼虫期の発育速度」に影響を与える「外気温」は「気温」である。

(2)「水中で生活する昆虫」の場合(「外気温」=「水温」)

ゲンゴロウ等の「水中で生活する昆虫」は、幼虫期も成虫期も水中で生活するため、「気温」の影響を直接受けない。ゲンゴロウ等の「水中で生活する昆虫」の「幼虫期の発育速度」に影響を与える「外気温」は「水温」である。

(3)「地中で生活する昆虫」の場合(「外気温」=「地温」)

ケラ等の「地中で生活する昆虫」は、幼虫期も成虫期も地中で生活するため、「気温」の影響を直接受けない。ケラ等の「地中で生活する昆虫」の「幼虫期の発育速度」に影響を与える「外気温」は「地温」である。

(4)「カブトムシ」の場合(「外気温」=「地温」)

カブトムシは、幼虫期を地中で生活し、成虫期は地上で生活する。従って、カブトムシは、成虫は「気温」の影響を直接受けるが、幼虫は「気温」の影響を直接受けない。カブトムシの「幼虫期の発育速度」に影響を与える「外気温」は「地温」である。

2.昆虫の「発育速度」

(1)「生物の発育速度」

生物の「発育」は、体内で起きる「化学反応」であり、「化学反応」の速度は、普通10℃の差で2~3倍変わる。従って、一般的に「生物の発育速度」は「温度」に比例し、10℃上昇するごとに2~3倍に増加する(温度係数Q10=2~3)。

(2)「昆虫の発育速度」

特に、「変温動物」である昆虫は、「恒温動物」である哺乳類や鳥類と違って、「発育」に必要な「温度」を自ら作り出し調整する事は出来ない。そのため、昆虫の「発育」は、「外気温」に大きく左右され、「外気温」が10℃上昇するごとに「昆虫の発育速度」は2~3倍に増加する。

(3)「カブトムシの幼虫期の発育速度」

これをカブトムシに当てはめた場合、カブトムシの「幼虫期の発育速度」に影響を与える「外気温」は「地温」であるから、カブトムシの「幼虫期の発育速度」は、「地温」が10℃上昇するごとに2~3倍に増加することになる。

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(9月7日朝6時撮影。2匹目のオス、羽化57日目。相変わらず食が細い。先月と違った変化は特に見られない。もう少し寿命を延ばすだろうか?)

 3.地温の「深度分布」の特徴

地温は地表に近いほど気温の影響を受ける。そのため、同一生息地(雑木林や養殖場)であっても、「地温」は地中の「深度」によって異なる。したがって、カブトムシの「幼虫期の発育速度」も、地中の「深度」によって異なり、「地温」が10℃上昇するごとに2~3倍に増加することになる。

それでは、具体的に「気温」と比べて「各深度の地温」はどのように異なるのだろうか?
・「各深度の地温」は、「気温」と比べてどの程度違うのか?
・「各深度の地温の振れ幅」は、「気温の振れ幅」と比べてどの程度違うのか?
・「各深度の地温」は、「気温の変化」と常に同期して変化するのか?
・「気温及び各深度の地温」は、その差が最も縮まる時期はいつか?

そこで、参考として「地温に関するデータ」を参考資料1:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」から引用した(国立科学博物館附属自然教育園は、東京都港区白金台五丁目に存在する国立科学博物館附属の自然緑地である)。

例:自然教育園内の気温及び地温(5, 10, 30, 50cm深)の月別平均値
2014年  気温  5cm深   10cm深  30cm深  50cm深
1月   4.5    5.0    6.0    8.5     10.0
2月   4.2    3.9    4.6    6.9      8.3
3月   9.1    7.8    8.0    8.2      8.5
4月   13.8   12.2   12.0   11.6   11.1
5月   18.4   17.6   15.7   14.7   13.5
6月   21.4   19.7   19.4   18.4   16.9
7月   24.5   22.5   22.0   21.7   19.0
8月   25.6   23.8   23.4   23.3    20.7
9月   21.2   20.4   20.5   20.4    20.0
10月   17.0   17.1   17.4   18.2   18.2
11月   12.2   13.1   13.7   15.5   15.9
12月   5.4    7.9    8.7     12.6     12.6

このデータによれば、昆虫の冬眠期間(最低発育限界温度10℃未満)は、50cm深は2カ月、30cm深は3カ月、10cm深・5cm深は4カ月である。このように冬眠期間は深度によって異なるため、地下1m~5mに巣穴を作るアリは、冬眠をせずに越冬出来るのである。

  (1)「各深度の地温」は、「気温」と比べてどの程度違うのか?

①参考資料1の「図3 気温および深度別日平均地温の季節変動(2014~2015年)」によると、「各深度の地温」と「気温」の日平均値の差(絶対値)は、以下の通りである。「各深度の地温」と「気温」との差は、深くなるほど、大きくなる傾向がある。

・5cm深の地温と「気温」の差⇒1.6℃(絶対値)
・10cm深の地温と「気温」の差⇒2.0℃(絶対値)
・30cm深の地温と「気温」の差⇒3.3℃(絶対値)
・50cm深の地温と「気温」の差⇒4.1℃(絶対値)

②ちなみに、東京の年平均気温15.4℃を基準にすると鹿児島18.6 ℃(+3.2℃)、秋田11.7 ℃(-3.7℃)であり、これは、気温と30cm深の地温の温度差3.3℃(絶対値)に相当する。

(2)「各深度の地温の振れ幅」は、「気温の振れ幅」と比べてどの程度違うのか?

①参考資料1の「表1 気温,相対湿度および地温(5, 10, 30, 50cm深)の月別平均値」(2014年)によると、気温と「各深度の地温」の「月平均の最高地温と最低地温の差」は、以下の通りである。このように「各深度の地温の振れ幅」は、深くなるほど狭まるため、地温は深くなるほど季節を通して安定する傾向がある。

・気温の振れ幅⇒ 25.6℃(8月)ー4.2 ℃(2月)=21.4℃
・5cmcm深の地温の振れ幅⇒23.8℃(8月)ー3.9 ℃(2月)=19.9℃
・10cm深の地温の振れ幅⇒23.4℃(8月)ー4.6 ℃(2月)=18.8℃
・30cm深の地温の振れ幅⇒23.3℃(8月)ー6.9 ℃(2月)=16.4℃
・50cm深の地温の振れ幅⇒20.7℃(8月)ー8.3 ℃(2月)=12.4℃

②また参考資料1によると、生命反応速度の振れ幅も、50cm深では5cm深の1/2と穏やかであることを指摘している。

(3)「各深度の地温」は、「気温の変化」と常に同期して変化するのか?

①参考資料1によると、「気温や表層付 近の地温の推移に対し,特に50cm深の地温は時間的な遅れを伴って推移していた。これは,大気中 や表層土付近に加えられた熱が徐々に熱伝導により下方に移動している様子や徐々に放熱している様 子を示していると考えられる」。

②「時間的な遅れ」の具体記述は無いが、参考資料1の「表1 気温,相対湿度および地温(5, 10, 30, 50cm深)の月別平均値」(2014年)を見ると、「気温の変化」に対して、30cm深で約1か月、50cm深で約2カ月のタイムラグを確認できる。

③したがって、「地温」は、地表に近いほど「気温の変化」と同期し、深くなるほど、同期しにくい傾向がある。

 (4)「気温及び各深度の地温」は、その差が最も縮まる時期はいつか?

①参考資料1の「図3 気温および深度別日平均地温の季節変動(2014~2015年)」によると、「3月上旬から 4月中旬ごろにかけて,そして8月下旬から9月中旬ごろにかけては,日平均気温を含め表層付近か ら50cm深までの温度差が最も小さくなる時期であった。つまり,この時期は大気環境から地表下 50cm深までがほぼ同程度の温度であるということである」。

②したがって、「気温及び各深度の地温」は、その差が最も縮まる時期は「3月上旬から 4月中旬頃」「8月下旬から9月中旬頃」であり、ほぼ同程度の温度になる。これは「昼夜の長さが等しくなり気温が上昇に転じる」春分の頃、「昼夜の長さが等しくなり気温が下降に転じる」秋分の頃に相当する。

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(9月6日朝8時撮影。昨日までは1匹目のオスの食いっぷりは良かったが・・)

 4.地温の「深度分布」の特徴(まとめ)

以上の地温の「深度分布」の特徴をまとめると、以下の通りである。

「地温」は、地表に近いほど「気温」の影響を受け易く、深くなるほど影響を受けにくい(「深くなるほど温まりにくく、且つ、冷えにくい」)。したがって、

(1)「各深度の地温」と「気温」との差は、深くなるほど、大きくなる傾向がある(例:5cm深1.6℃、10cm深2.0℃、30cm深3.3℃、50cm深4.1℃)。

(2)「各深度の地温の振れ幅」は、深くなるほど狭まるため、地温は深くなるほど季節を通して安定する傾向がある(例:5cm深19.9℃、10cm深18.8℃、30cm深16.4、50cm深12.4℃)

(3)「地温」は、地表に近いほど「気温の変化」と同期し、深くなるほど、同期しにくい傾向がある(例:「気温の変化」に対して、30cm深で約1か月、50cm深で約2カ月のタイムラグを確認できる)

(4)「気温及び各深度の地温」は、その差が最も縮まる時期は「3月上旬から 4月中旬頃」「8月下旬から9月中旬頃」であり、ほぼ同程度の温度になる。これは「昼夜の長さが等しくなり気温が上昇に転じる」春分の頃、「昼夜の長さが等しくなり気温が下降に転じる」秋分の頃に相当する。

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(9月6日朝8時撮影。1匹目のオス、体温調整が出来ないカブトムシは成虫も地温を頼りにしている)

5.地温の「季節変動サイクル」

以上の地温の「深度分布」の特徴(1)~(4)から、「各深度の地温」は季節変動によって以下のように移り変わることがわかる。

(1)「春から夏にかけての気温の上昇」期

「各深度の地温」は、「春から夏にかけての気温の上昇」に伴い上昇するが、深くなるほど気温の影響を受けにくく、また、同期しにくいので「各深度の地温」に温度差が生じる(気温>表層>中層>深層)。例:「気温の変化」に対して、30cm深で約1か月、50cm深で約2カ月のタイムラグを確認できる。

(2)「昼夜の長さが等しくなり気温が下降に転じる」秋分の頃

「各深度の地温」は、「昼夜の長さが等しくなり気温が下降に転じる」秋分の頃に、温度差がなくなり(タイムラグが解消され)、ほぼ同程度の温度になる(気温=表層=中層=深層)。

(3)「秋から冬にかけての気温の低下」期

「各深度の地温」は「秋から冬にかけての気温の低下」に伴い低下するが、深くなるほど気温の影響を受けにくく、また、同期しにくいので「各深度の地温」に温度差が生じる(気温<表層<中層<深層)。例:「気温の変化」に対して、30cm深で約1か月、50cm深で約2カ月のタイムラグを確認できる。

(4)「昼夜の長さが等しくなり気温が上昇に転じる」春分の頃

「各深度の地温」は、「昼夜の長さが等しくなり気温が上昇に転じる」春分の頃に、温度差がなくなり(タイムラグが解消され)、ほぼ同程度の温度になる(気温=表層=中層=深層)。

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(9月6日朝8時撮影。2匹目のオス、このように地中を掘れば自然界のカブトムシもまだ出てくる)

6.地温の「季節変動サイクル」への「温度ーサイズ則」の適用

地温の「季節変動サイクル」へ「温度ーサイズ則」を適用すると、次のようになる。

同一生息地(雑木林や養殖場)であっても、生息深度によって地温が違うため、カブトムシの「幼虫期の発育速度」に違いが生じ、「幼虫の発育期間」や「成虫の大きさ」にも違いが発生する(「温度ーサイズ則」)。「各深度の地温」は季節変動によって移り変わるため、具体的な違いは、地温の「季節変動サイクル」が決定づける。

(1)「春から夏にかけての気温の上昇」期

「各深度の地温」は、「春から夏にかけての気温の上昇」に伴い上昇するが、深くなるほど気温の影響を受けにくく、また、同期しにくいので「各深度の地温」に温度差が生じる(「気温>表層>中層>深層」)。そのため、

①生息深度が浅いほど地温は高くなるため、幼虫期の発育速度は速まり、成長率が高くなるため、カブトムシの幼虫は発育期間を著しく短縮して「小型化」した成虫へと発育を遂げる。

②生息深度が深いほど地温は低く留まるため、幼虫期の発育速度は遅くなり、成長率が低くなるため、カブトムシの幼虫は発育期間を著しく延長して「大型化」した成虫へと発育を遂げる。

 (2)「秋から冬にかけての気温の低下」期

「各深度の地温」は「秋から冬にかけての気温の低下」に伴い低下するが、深くなるほど気温の影響を受けにくく、また、同期しにくいので「各深度の地温」に温度差が生じる(「気温<表層<中層<深層」)。そのため、

①生息深度が浅いほど地温は低くなるため、「冬眠期間」(最低発育限界温度10度未満)が長くなり、その分「発育可能期間」(最低発育限界温度10度以上)は短くなる。その結果、カブトムシの幼虫は発育期間を著しく短縮して「小型化」した成虫へと発育を遂げる。
②生息深度が深いほど地温は高く留まるため「冬眠期間」(最低発育限界温度10度未満)は短くなり、その分「発育可能期間」(最低発育限界温度10度以上)は長くなる。その結果、カブトムシの幼虫は発育期間を著しく延長して「大型化」した成虫へと発育を遂げる。

それでは、地球温暖化に伴い、カブトムシの生息域はどのように変わるのだろうか?また、「温度ーサイズ則」によれば、カブトムシの大きさはどのように変わるのだろうか?沖縄に生息するオキナワカブトやタイワンカブトの様に小型化してしまうのだろうか?

長くなるので、次回へ続く。 

参考資料1:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」

研究と標本・資料 ≫ 学術出版物 :: 国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tokyo