カブトムシと地球温暖化⑥「夏の昆虫たちの最後の砦(とりで)”雑木林の地温”の限界」(”初冬のカブトムシ”「温暖化が心配です。吐く息を止めなくても大丈夫ですか?」。飼い主「大丈夫です。念のため、専門家に聞いてみよう」。国立環境研究所「私たちが呼吸によって吐き出すCO2はもともと大気中に存在したものなのです。ですから、いくら呼吸をしても大気中のCO2を増やしも減らしもしません」。”初冬のカブトムシ”「安心しました。あとはあの記事を書いてくれたら、心置き無く天国へ行けます」。飼い主「??」)
(12/2撮影、今日(12/2)で羽化後144日目を迎えた2匹目オス(茶))
2匹目オス(茶)「温暖化が心配です。吐く息を止めなくても大丈夫ですか?」
飼い主「大丈夫です。念のため、専門家に聞いてみよう」
国立環境研究所「私たちが呼吸によって吐き出すCO2はもともと大気中に存在したものなのです。ですから、いくら呼吸をしても大気中のCO2を増やしも減らしもしません」
2匹目オス(茶)「安心しました。あとはあの記事を書いてくれたら、心置き無く天国へ行けます」
飼い主「??」
温暖化の科学 Q1 呼吸で大気中の二酸化炭素が増加する? - ココが知りたい地球温暖化 | 地球環境研究センター
(とうとう、”初冬(12月)のカブトムシ”となった2匹目オス(茶))
2匹目オス(茶)は、先月から老衰が急速に進んで瀕死の状態にある。それでも何とか生きようとしている理由はなんだろう?2匹目オス(茶)は何かを見届けようとしているようだ。「冬に地球温暖化の話」を書くのは気が重いが、話を先に進めよう。今回のテーマは「夏の昆虫たちの最後の砦(とりで)”雑木林の地温”の限界」である。地球温暖化に伴い、日本に生息するカブトムシが今世紀末までに絶滅するか否か、もしくは特定の地域で全滅するか否か、非常にシビアな気温境界線の話である。
優れた事業家や投資家ほど、自然界の変化に敏感である。彼らはカブトムシには興味は無いが、世界の食料の63%の野菜や果物に花粉を運ぶ昆虫(ハチ目、チョウ目)には興味を示す。11/5ブログ「カブトムシと地球温暖化③」で述べたように、カブトムシ等のコウチュウ目とハチ目・チョウ目の「高温障害温度域」の違いは、わずか1~2℃である。「地球温暖化に伴いカブトムシが、かつてのメダカのように絶滅危惧種に指定されたら、次は人類の食料生産を支えるハチやチョウの番である」という。
地球温暖化の原因は「CO2等の温室効果ガスの急増」であって「太陽光」ではない。「魚のための水つくり」「農作物のための土つくり」「昆虫のための土つくり」に太陽光は欠かせない。そのため、カブトムシやメダカの屋外飼育に”こだわり”を感じている人も多いであろう。屋外飼育は太陽光の恩恵を十分受けるので、カブトムシやメダカが健康で長生きできる微生物環境が整いやすい。そして、水や土の深さを調整することで夏の猛暑からメダカやカブトムシを守ることが出来る。今回のテーマはカブトムシの屋外飼育における土(マット)の「深さ」を算出する上で参考になるだろう。
11/18ブログ「カブトムシと地球温暖化④」で述べたように、「雑木林の外の気温」(気象庁発表の気温)が「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」の気温境界線(37.1℃)を超えると、「雑木林の林内気温」は「木陰効果(-2.1℃)」を考慮しても「昆虫の致死温度(35℃)」に到達すると推測される。
それでは、「雑木林の林内気温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に突入すると、雑木林の昆虫は全て「死に至る」のだろうか?産卵した卵や孵化した幼虫も全て「死に至る」のだろうか?
(10月上旬の近所の公園。10/7は真夏日(最高32.3℃、最低23.9℃)。緑が濃い)
⇩
(10月下旬の近所の公園 10/31の気温(最高19.9℃、最低11.9℃)。やや紅葉)
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(11月下旬の近所の公園 11/30の気温(最高16.0℃、最低8.1℃)。ほぼ紅葉)
1.「高温障害」を避けるための昆虫の移動
昆虫は「高温障害」を避けるため、「外気温」が「高温障害温度域」(一般に28℃~35℃)に到達すると涼しい場所を求めて移動する(負の趨温(すうおん)性)。雑木林の木陰に隠れたり、落ち葉の下に隠れたり、土壌の深層まで潜ることによって、「猛暑による高温」から身を守る。
したがって、「雑木林の林内気温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に突入し、木陰に隠れた昆虫たちが「死に至った」としても、日中、落ち葉の下に隠れたり、土壌の深層まで潜ることが出来た昆虫たちは「死に至たらなかった」可能性がある。
9/7ブログ「カブトムシの大きさの秘密③」で考察したように、「地温」(土壌の温度)は地表に近いほど「気温」の影響を受け易く、深くなるほど影響を受けにくい。「気温」が上昇する夏の時期は、雑木林の「地温」は深くなるほど「林内気温」より低い。
そのため、例えばカブトムシのメスは「猛暑による高温」から卵を守るため、雑木林の中でも、柔らかい腐葉土や黒土が厚く積もっている場所を探し出し、土壌の深層まで潜って産卵する。このような場所では、カブトムシのオスのような大きな角を持った昆虫でもかなり深くまで潜ることが出来る。
(針葉樹も黄金色に染まる初冬(12月)。カブトムシの幼虫も地下深く潜る)
2.夏の雑木林の「林内気温と各深度の地温の差」
それでは、どの程度の深さまで土壌に潜れば、昆虫たちは「猛暑による高温」から身を守ることが出来るのであろうか?それを知るためには、夏の雑木林の「林内気温と各深度の地温の差」を知る必要がある。
9/7ブログ「カブトムシの大きさの秘密③」では、「カブトムシの幼虫の発育速度や成虫の大きさ」を決定づける「深度別地温」の考察を行った。その際に参考にした「国立科学博物館附属自然教育園」(東京都港区白金台五丁目)の参考資料1:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」には、自然教育園内の雑木林の「林内気温」と「各深度の地温」が7年分(2010年~2016年)記載されている。
この7年分(2010年~2016年)のデータの中から夏(6月~8月)のデータのみを抜粋し、6月・7月・8月の「林内気温」と「各深度の地温」を比較すると以下の通りである(ーはデータ欠損である。ブランクは未観測であると思われる)。
(晩秋から初冬にかけて咲き乱れるサザンカは、公園の中でも一際目立つ)
6月 林内気温 地温(5cm深 10cm深 30cm深 50cm深)
2010年 21.5℃ 19.8℃ 15.5℃
2011年 20.8℃ 19.6℃ 15.9℃
2012年 19.6℃ 18.5℃ 18.1℃ 16.7℃ 15.7℃
2013年 20.9℃ ー 19.0℃ ー 16.0℃
2014年 21.4℃ 19.7℃ 19.4℃ 18.4℃ 16.9℃
2015年 20.6℃ 18.9℃ 18.7℃ 17.5℃ 16.4℃
2016年 20.9℃ 19.4℃ 19.0℃ 18.1℃ 16.8℃
平 均 20.8℃ 19.3℃ 18.8℃ 17.7℃ 16.2℃
7月 林内気温 地温(5cm深 10cm深 30cm深 50cm深)
2010年 25.6℃ 24.1℃ 19.1℃
2011年 25.3℃ 23.5℃ 18.7℃
2012年 24.2℃ 22.8℃ 22.0℃ 19.7℃ 18.3℃
2013年 25.0℃ ー 22.6℃ 20.2℃ 18.7℃
2014年 24.5℃ 22.5℃ 22.0℃ 21.7℃ 19.0℃
2015年 24.6℃ 22.5℃ 22.0℃ 20.2℃ 18.8℃
2016年 24.0℃ 22.2℃ 21.7℃ 20.6℃ 19.0℃
平 均 24.7℃ 22.9℃ 22.1℃ 20.5℃ 18.8℃
8月 林内気温 地温(5cm深 10cm深 30cm深 50cm深)
2010年 27.4℃ 25.5℃ 20.8℃
2011年 25.6℃ 24.3℃ 20.2℃
2012年 26.7℃ 24.8℃ 24.0℃ 21.6℃ 20.2℃
2013年 26.6℃ ー 24.3℃ 22.1℃ 20.7℃
2014年 25.6℃ 23.8℃ 23.4℃ 23.3℃ 20.7℃
2015年 25.4℃ 23.7℃ 23.4℃ 22.1℃ 20.8℃
2016年 25.6℃ 24.1℃ 23.5℃ 22.7℃ 21.1℃
平 均 26.1℃ 24.4℃ 23.7℃ 22.4℃ 20.6℃
(親子連れが懐かしい歌を口ずさんでいる「さざんか さざんか 咲いたみち♪ たき火だ たき火だ 落ち葉たき♪」)
以上の6月・7月・8月の各7年平均(2010年~2016年の平均)から、6月・7月・8月の「林内気温と各深度の地温の差」を求めると以下の通りである。
林内気温差 地温(5cm深 10cm深 30cm深 50cm深)
6月 -1.5℃ -2.0℃ -3.1℃ -4.6℃
7月 -1.8℃ -2.7℃ -4.3℃ -5.9℃
8月 -1.8℃ -2.4℃ -3.8℃ -5.5℃
「林内気温と10cm深の地温の差」は-2.0℃~-2.4℃であり、これは「木陰効果(-2.1℃)」に匹敵する。また、「林内気温と50cm深の地温の差」は-4.6℃~-5.9℃であり、これは「地球温暖化に伴い今世紀末までに予想される年平均気温の上昇幅(全国平均4.5℃)」に匹敵する。このように、雑木林の地中の世界は、夏の昆虫たちにとって「猛暑による高温」から身を守るための「最後の砦(とりで)」と言える。
(ツバキは花弁が丸ごと落ちるが、サザンカは花びらが桜のように個々に散る)
3.「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」の気温境界線(37.1℃)における地温
それでは、今年7月に兵庫県市川町で発生した「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」の気温境界線(37.1℃)における「各深度の地温」を求めてみよう(「林内気温」は「気温」から「雑木林の木陰効果(-2.1℃)」を差し引いて捉え、「各深度の地温」は、「林内気温」から上記「林内気温と各深度の地温の差」を差し引いて捉えることになる)。
気温 林内気温 地温(5cm深 10cm深 30cm深 50cm深)
7月 37.1℃ ⇨ 35℃ ⇨ 33.2℃ 32.3℃ 30.7℃ 29.1℃
この「各深度の地温」を「昆虫の高温障害」の視点で考察すると以下の通りである。
(1)5cm深~10cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫
5cm深の地温は33.2℃であり、10cm深の地温は32.3℃である。したがって、
①「死に至たらなかった」
5cm深~10cm深の地温は「昆虫の致死温度(35℃)」に到達しない。つまり、5cm深~10cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たちは「死に至たらなかった」と推測される。
②しかし、「生理的障害」や「産卵不能障害」が発生した
しかし、5cm深~10cm深の地温は「生理的障害温度域(28~32℃)」や「産卵不能障害温度域(32~35℃)」に到達する。つまり、5cm深~10cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たちには「生理的障害」(孵化率や羽化率の低下、成虫寿命の短縮、産卵数の減少等)や「産卵不能障害」が発生したと推測される。
(ツバキの花は立体的で厚みがあるが、サザンカの花は平面的で薄い)
(2)30cm深~50cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫
30cm深の地温は30.7℃であり、50cm深の地温は29.1℃である。したがって、
①「死に至たらなかった」
30cm深~50cm深の地温は「昆虫の致死温度(35℃)」に到達しない。つまり、30cm深~50cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たちは「死に至たらなかった」と推測される。
②「子孫を残すことも出来た」
また、30cm深~50cm深の地温は「産卵不能障害温度域(32~35℃)」にも到達しない。つまり、30cm深~50cm深の土壌潜ることが出来た昆虫たちは「子孫を残すことも出来た」と推測される。
③しかし、「生理的障害」は発生した
しかし、30cm深~50cm深の地温は「生理的障害温度域(28~32℃)」に到達する。つまり、30cm深~50cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たちには、「生理的障害」(孵化率や羽化率の低下、成虫寿命の短縮、産卵数の減少等)が発生したと推測される。
(ピンクのサザンカの花言葉は寒さに負けずひたむきに咲く姿から「永遠の愛」)
4.地温を推測する上で一年の最高気温(38.8℃)を基準にしてはいけない理由
11/18ブログ「カブトムシと地球温暖化④」で述べたように、今年7月に兵庫県市川町で発生した「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」の原因は「7月14日以降の14日連続猛暑」であり、その間に今年の最高気温38.8℃(福崎、7月24日)を記録している。しかし、地温を推測する上で一年の最高気温(38.8℃)を基準に算出してはいけない。
(1)一日の最高気温(38.8℃)は「一瞬の出来事」(10分以内)
通常、一日の最高気温は一瞬の出来事である。気象庁の10分ごとの記録によると、7月24日に福崎で記録した38℃台の気温が継続した時間は10分にすぎない。したがって、この日記録した今年の最高気温(38.8℃)も一瞬の出来事(10分以内)であったと推測される。
(2)一年の最高気温(38.8℃)は「猛暑の高温域の端」(最高気温の最大値)
「一年の最高気温」はその年に発生した「一日の最高気温」の最大値であり、その年に発生した「猛暑の高温域の端」(38.8℃)に過ぎない。しかし、自然界に影響を及ぼす温度は「一日の最高気温」の平均値であり、その年に発生した「猛暑の高温域の中心」(37.1℃)である。
(左は、サザンカ立寒椿「勘次郎」。右は、背の高いスギ科のメタセコイア)
(3)雑木林の土壌は「温まりにくく、冷めにくい」
猛暑にさらされたアスファルト道路の温度は急速に上昇する。しかし、「水分」を多く含む雑木林の土壌の温度は急速に上昇しない。11/24ブログ「カブトムシと地球温暖化⑤」で述べたように「水」は比熱が大きく「温まりにくく、冷めにくい」性質がある。
また、参考資料1:「自然教育園内の深度別地温観測(2010年~2016年)」によれば、『下層ほど,有機物含量が減り,より固相が無機質になるとともに緻密化し固相率も高くなることで,土壌が温まり難く,且つ,冷えにくくなる要因にもなっていると考えられる』という。
(4)雑木林の土壌は「夜間冷める前に翌日の日中に更に温められる」ことにより地温が上昇する
11/18ブログ「カブトムシと地球温暖化④」で述べた通り、「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」の原因は、「猛暑の高温域の中心」(一日の最高気温の平均値)が35℃台から37℃台にシフトしたことにより「平年に比べ1日の平均気温が4.3℃高い気温帯」が発生し(日中の気温は30.2℃~37.1℃、夜間の気温は24.9℃~30.2℃)、翌日以降も「37℃以上の気温」が連日発生しやすい状況が生まれた為だと推測される(14日連続猛暑)。同様に、雑木林の土壌も「夜間冷める前に翌日の日中に更に温められる」ことにより地温が上昇すると推測される。
このように「温まりにくく、冷めにくい」土壌の温度(地温)を推測する際には、一瞬の出来事(10分以内)である「猛暑の高温域の端」(一日の最高気温の最大値38.8℃)ではなく、一定期間繰り返される「猛暑の高温域の中心」(一日の最高気温の平均値37.1℃)を基準に推測する必要がある。
(赤いサザンカの花言葉は、控えめでどこか寂しげな花姿にちなんで「謙譲」)
5.昆虫が土壌に潜ることが出来る深さの限界
(1)雑木林の土壌は「下層ほど土壌硬度が増大する」(5~10cm深は柔らかい黒土層、30~50cm深は固い赤土層)
参考資料1:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」によれば、『5および10cm深は有機物を多く含む黒土』であり『30および50cm深は有機物が少なく気相率の小さい赤土層』である。『園内での研究結果から,土壌は下層ほど気相率が減少し,固相はより緻密化し,土壌硬度も増大することが明らかにされている』という。
(2)昆虫が土壌に潜ることが出来る深さの限界
①カブトムシの成虫の場合
このように雑木林の土壌は「下層ほど土壌硬度が増大する」ため、昆虫が土壌に潜ることが出来る深さには限界がある。アリは集団でトンネルを作りながら地下に潜るため、地下1m~5mの固い赤土層に巣穴を作ることが出来る。しかし、カブトムシは単体で土壌を掻き分けながら地下に潜るため、5cm深~10cm深の柔らかい黒土層を掘り進むことは可能であるが、30cm深~50cm深の固い赤土層を掘り進むことは困難を伴う。特に、カブトムシのオスのような大きな角を持った昆虫にとっては、至難の業である。
②カブトムシの幼虫の場合
一方、10/16ブログ「カブトムシの幼虫の季節的垂直移動」で述べたように、10月下旬頃からカブトムシの三齢幼虫は越冬のため土壌深く潜る(コガネムシの三齢幼虫でさえ30cm深~40cm深の固い赤土層を掘り進む)。真冬の地温は深層でも最低発育限界温度10℃を下回るため、カブトムシやコガネムシの三齢幼虫は越冬中はエサをほとんど食べない。そのため、越冬中の三齢幼虫にとって「エサとなる有機物が少ない環境」(30cm深~50cm深)であっても問題はない。しかし、夏の孵化したばかりのカブトムシの一齢幼虫や二齢幼虫にとって「エサとなる有機物が少ない環境」(30cm深~50cm深)での生活は生死に関わる。
したがって、カブトムシの成虫や幼虫が土壌に潜ることが出来る深さの限界は、「有機物が少なく固い赤土層が存在する」30cm深~50cm深であると推測される。
(白いサザンカ「富士の峰」。サザンカが散ると次はツバキの開花シーズン)
6.「各深度の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線
それでは、「各深度の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線は何度であろうか?また、「産卵不能障害温度域(32~35℃)」に到達する気温境界線は何度であろうか?
「各深度の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線は、以下の通りである。また()内は「各深度の地温」が「産卵不能障害温度域(32~35℃)」に到達する気温境界線である(「林内気温」は「各深度の地温」に上記「各深度の地温と林内気温の差」を足して捉え、「気温境界線」は、「林内気温」に「雑木林の木陰効果(-2.1℃)」を足して捉えることになる)。
(1)「5cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線
気温境界線 林内気温 地温(5cm深)
6月 38.6℃(35.6℃) ⇨ 36.5℃(33.5℃) ⇨ 35℃(32℃)
7月 38.9℃(35.9℃) ⇨ 36.8℃(33.8℃) ⇨ 35℃(32℃)
8月 38.9℃(35.9℃) ⇨ 36.8℃(33.8℃) ⇨ 35℃(32℃)
(2)「10cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線
気温境界線 林内気温 地温(10cm深)
6月 39.0℃(36.0℃) ⇨ 37.0℃(34.0℃) ⇨ 35℃(32℃)
7月 39.8℃(36.8℃) ⇨ 37.7℃(34.7℃) ⇨ 35℃(32℃)
8月 39.5℃(36.5℃) ⇨ 37.4℃(34.4℃) ⇨ 35℃(32℃)
(3)「30cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線
気温境界線 林内気温 地温(30cm深)
6月 40.2℃(37.2℃) ⇨ 38.1℃(35.1℃) ⇨ 35℃(32℃)
7月 41.4℃(38.4℃) ⇨ 39.3℃(36.3℃) ⇨ 35℃(32℃)
8月 41.9℃(38.9℃) ⇨ 38.8℃(35.8℃) ⇨ 35℃(32℃)
(4)「50cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線
気温境界線 林内気温 地温(50cm深)
6月 41.7℃(38.7℃) ⇨ 39.6℃(36.6℃) ⇨ 35℃(32℃)
7月 43.0℃(40.0℃) ⇨ 40.9℃(37.9℃) ⇨ 35℃(32℃)
8月 42.6℃(39.6℃) ⇨ 40.5℃(37.5℃) ⇨ 35℃(32℃)
(白いサザンカの花言葉は、冬の風に吹かれても愛らしく咲く姿から「愛嬌」)
7.夏の昆虫たちの最後の砦「雑木林の地温」の限界
このように、カブトムシの成虫や幼虫が土壌に潜ることが出来る深さの限界が「有機物が少なく固い赤土層が存在する」30cm深~50cm深であるとすると、「30cm深~50cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」又は「産卵不能障害温度域(32~35℃)」に到達する「気温境界線」が「カブトムシの成虫や幼虫が子孫を残せず全滅する気温境界線」となる。
例えば、7月の「30cm深~50cm深」の地中の世界を「昆虫の高温障害」の視点で考察すると以下の通りである。
(1)30cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たち
①「猛暑の高温域の中心」が38.4℃にシフトすると「産卵不能障害」が発生する
「30cm深の地温」が「産卵不能障害温度域(32~35℃)」に到達する気温境界線は38.4℃である。つまり、一日の最高気温が38.4℃以上の猛暑が数日続き、「猛暑の高温域の中心」(一日の最高気温の平均値)が38.4℃にシフトすると、「30cm深の地温」が「産卵不能障害温度域(32~35℃)」に到達する。したがって、30cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たちも「産卵不能障害」が発生すると推測される。
②「猛暑の高温域の中心」が41.4℃にシフトすると「死に至る」
「30cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線は41.4℃である。つまり、一日の最高気温が41.4℃以上の猛暑が数日続き、「猛暑の高温域の中心」(一日の最高気温の平均値)が41.4℃にシフトすると、「30cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する。したがって、30cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たちも「死に至る」と推測される。
(2)50cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たち
①「猛暑の高温域の中心」が40.0℃にシフトすると「産卵不能障害」が発生する
「50cm深の地温」が「産卵不能障害温度域(32~35℃)」に到達する気温境界線は40.0℃である。つまり、一日の最高気温が40.0℃以上の猛暑が数日続き、「猛暑の高温域の中心」(一日の最高気温の平均値)が40.0℃にシフトすると、「50cm深の地温」が「産卵不能障害温度域(32~35℃)」に到達する。したがって、50cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たちも「産卵不能障害」が発生すると推測される。
②「猛暑の高温域の中心」が43.0℃にシフトすると「死に至る」
「50cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する気温境界線は43.0℃である。つまり、一日の最高気温が43.0℃以上の猛暑が数日続き、「猛暑の高温域の中心」(一日の最高気温の平均値)が43.0℃にシフトすると、「50cm深の地温」が「昆虫の致死温度(35℃)」に到達する。したがって、50cm深の土壌に潜ることが出来た昆虫たちも「死に至る」と推測される。
(机の上は冷たいので飼育ケースの下に使用済みの「猫の爪とぎ」を敷いている)
8.”冬の(12月)のカブトムシ”の様子(瀕死の状態)
2匹目オス(茶)は、バナナを毎日食べて、今日(12/2)で羽化後144日目を迎えた。1匹目オス(赤)より49日寿命を延ばしている。とうとう、2匹目オス(茶)は、”初冬(12月)のカブトムシ”になってしまった。しかし、以下の通り、老衰が急速に進んでいるようだ。
(1)歩き回って仰向けに転がっていることが多い
この週末(12月1日・2日)、飼育ケースの中を歩き回って仰向けに転がっていることが多かった。11月14日に左後ろ足の鍵爪が取れて以来、後ろ足2本が動かないことが原因だが、突然飼育ケースの中を歩き回るようになった原因は不明だ。
(2)エサを食べられなくなった可能性がある
この週末、じっくり観察したが、エサを食べている時間が少ない。もしかしたら、消化系等の内臓の老化が進んでエサを食べられなくなった可能性がある。
(3)外見にも変化が見られる
外見にも変化が見られる。固い外側の前翅が縮んでいるようだ。
(12/2撮影、12月に入ってからエサを食べている時間が少なくなった)
このように2匹目オス(茶)の体は急速に衰えている。12月に入ったので、天国の1匹目オス(赤)がクリスマスを一緒に過ごそうと、迎えに来ているのかもしれない。
①夜間は、マットの上に出て活動していること(食事・排泄など)⇒△。
②木にしがみつく力が強いこと(体力)⇒×。
③日中は、マットの下に潜っていること(休息・太陽光や熱の遮断)⇒×。
(12/2撮影、横から見ると、固い外側の前翅が縮んでいるように見える)
(12/2撮影、後ろから見ても、前翅が縮んでいるように見える)
参考資料1:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」
研究と標本・資料 ≫ 学術出版物 :: 国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tok