カブトムシの幼虫、さなぎの育て方2018年

虫好きな猫たちのために、ベランダでカブトムシの幼虫を育てる悪戦苦闘の物語

カブトムシと地球温暖化③「昆虫の高温障害の仕組みと温度域と症状」(外気温が「発育有効温度帯」の上限に近づくほど昆虫の「発育・反応速度」は速くなる。しかし、外気温が「高温障害温度域」に突入すると、高温によるストレスにより昆虫の「発育・反応速度」は逆に遅くなる(生理的障害・産卵不能障害)。更に外気温が「発育有効温度帯」の上限を突破すると昆虫は発育・活動を停止し死に至る(致死・即死))

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(10月上旬の近所の公園。10/7は真夏日(最高32.3℃、最低23.9℃)。緑が濃い)

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(10月末の近所の公園 10/31の気温(最高19.9℃、最低11.9℃)。やや紅葉)

前回「カブトムシと地球温暖化②」で述べたように、「気象庁地球温暖化予測情報」の通りならば、今世紀末までに東京・名古屋・大阪・福岡の気温は、南西諸島の「屋久島の平年気温」に置き変わり、現在の屋久島のような「温帯最下部のほぼ亜熱帯に属する地域」になると推測される。

前回は「気象庁地球温暖化予測情報」を基に、今世紀末に予想される東京・名古屋・大阪・福岡の「季節」を、この4都市の中で最も緯度が高く平年気温が低い都市「東京」を例に考察した。その上で「夏の季節」について以下①②のように述べた。

猛暑日(最高気温≧35℃)は10倍増え約1か月間に及ぶ(2.4日⇒26.4± 7.0日)。最暖月(8月)は「昆虫の高温障害」が発生する猛暑日(最高気温≧35℃)が連日続くことなる。
②「日中の最高気温」は「昆虫種の致死温度帯(≧40℃)」に突入する。

「今年の夏、日本で起こった異常気象」を振り返れば、これは「控えめな表現」であることがわかる。上記①②の現象は、今世紀末を待つまでもなく、今年の夏、この4都市とほぼ同緯度の地域で既に起こった事実だからである。

また、「昆虫の高温障害」「昆虫種の致死」の上記温度についても、生命力の非常に高い昆虫種まで含む場合の温度であり、昆虫の大きな目であるコウチュウ、カメムシ、ハチ、チョウ目に限定すれば「昆虫の高温障害」「昆虫種の致死」が発生する温度はもっと低い。 

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(10月末の近所の公園 公園中央は、赤く色付き始めた)

 1.2018年夏は「気象庁地球温暖化予測通りの現象」が出始めた年である

 (1)猛暑日の「将来日数」

今年の夏、兵庫県市川町のカブトムシ観察施設(約千平方メートルのコナラ林)でカブトムシ3000匹衰弱死するというニュースがあった。そこで、同町に近い福崎町の観測点(北緯34度57.0分)における今年7月~8月の猛暑日(最高気温≧35℃)の日数を調べてみた。猛暑日の日数は30日であった。これは、今世紀末までに予想される東京(北緯35度41.5分)の猛暑日の「将来日数」(26.4± 7.0日)に相当する。

(2)日中の最高気温の「将来気温」

今年の夏、埼玉県熊谷市(北緯36度09.0分)で「国内の観測史上最高」となる41.1度を記録した。東京都青梅市(北緯35度47.3分)で「都内初の40度超え」となる40.8度を記録した。これは、今世紀末までに予想される東京(北緯35度41.5分)の「日中の最高気温」の「将来気温」(40.1± 0.6℃)に相当する。

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(10月末の近所の公園 ”どんぐり”を落としたクヌギ林は、まだ緑が濃い)

 2.「昆虫の高温障害の仕組みと温度域」(一般に30±2.0℃(28~32℃))

wikipedia(フリー百科事典)によると、カブトムシは「コウチュウ目・コガネムシ科・カブトムシ亜科・真性カブトムシ族カブトムシ種」であり、コウチュウ目の仲間である。そしてカブトムシの飼育温度は「直射日光の当たらない、気温25度程度、35度以下の通気性の良い場所で飼育する」とある。

この35度という温度は、昆虫の「発育有効温度帯」(一般に10℃~35℃)の上限値(最高発育限界温度35℃)に相当する。屋外の気温では「猛暑日」(最高気温≧35℃)に当たる。それでは、最高発育限界温度35℃を超えない環境であれば、カブトムシ等の昆虫類は高温によるストレス(高温障害)を受けないのだろうか?健康な状態で寿命を全うし、翌年に子孫を残せるのだろうか?

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(10月末の近所の公園 広い敷地の中で、この側道だけ花が咲いていた)

(1)昆虫の「発育有効温度帯」(一般に10℃~35℃)

「変温動物」である魚類や昆虫類は、「恒温動物」である哺乳類や鳥類と違って、「発育」や「活動」に必要な「温度」を自ら作り出し調整する事は出来ない。そのため、「変温動物」である昆虫の「発育」や「活動」は、外気温に大きく左右され、昆虫には「発育や活動に有効な一定の温度の範囲」(有効温度帯)が存在する。昆虫は、それより高い温度帯(一般に35℃以上)や低い温度帯(一般に10℃以下)では、「発育」や「活動」はできない(最低発育限界温度10℃~最高発育限界温度35℃)。

(2)昆虫の「発育速度」や「反応速度」は「温度」に比例する

昆虫類の幼虫は食料を消化して「発育」に必要な物質に変える(物質代謝)。また、昆虫類の幼虫や成虫は食料を消化して「活動」(食事・排泄・移動等)に必要なエネルギーに変える(エネルギー代謝)。これらの「代謝」は、体内で起きる「化学反応」であり、「化学反応」の速度は、普通10℃の差で2~3倍変わる。従って、昆虫の「発育速度」や「反応速度」は「温度」に比例し、10℃上昇するごとに2~3倍に増加する(温度係数Q10=2~3)。「温度」が1℃上昇するごとに昆虫の「発育」や「活動」に必要な「代謝」は約10%活発になる。

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(ズーム機能は使わずに、被写体に近寄って撮影。この花の名は?)

(3)「高温障害」により昆虫の「発育速度」や「反応速度」は逆に遅くなる。

このように昆虫は一般に「発育有効温度帯」(一般に10℃~35℃)の範囲内では、外気温がその上限(最高発育限界温度)に近づくほど昆虫の「発育速度」や「反応速度」は速くなる。しかし、外気温が「昆虫の高温障害温度域」に突入すると、高温によるストレス(「高温障害」)を受け始め、昆虫の「発育速度」や「反応速度」は逆に遅くなる。

(4)「昆虫の発育速度が最大となる温度(最短発育温度)」は「昆虫の高温障害温度域」の中央値である

したがって、昆虫の「発育速度」や「反応速度」は、「最高発育限界温度」(一般に35℃)の手前の「昆虫の高温障害温度域」の中央値でピークを迎える。つまり、「昆虫の発育速度が最大となる温度(最短発育温度)」は「昆虫の高温障害温度域」の中央値である。 

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 (更に被写体に近寄って撮影。結局、この花の名はわからなかった) 

(5)昆虫一般の「高温障害温度域」は30±2.0℃(28~32℃)

それでは昆虫一般の「高温障害温度域」は具体的に何度なのだろうか?

参考資料1:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」によれば、『119種について温度と高温障害の出現頻度を調べてみた。頻度分布曲線をスムーズにするために5点移動平均値を求めて描いた(Fig 3)。Fig. 3から高温障害がみられるのは28~32℃の範囲が一般的であることが伺える。この温度は夏にはごく日常的に経験する温度であること にも注目したい』という。

したがって昆虫一般の「高温障害温度域」は30±2.0℃(28~32℃)である。

(6)コウチュウ目の「最低発育限界温度」は10.9±2.5℃(8.4~13.4℃)、「高温障害温度域」は29.14±2.7℃(26.4~31.8℃)

それではカブトムシを含むコウチュウ目の「高温障害温度域」は具体的に何度なのだろうか?

参考資料1によれば『昆虫の大きな目であるコウチュウ、カメムシ、ハチ、チョウ目を取り上げて、そのT0と高温障害温度域の比較を行った(Table 8)。 T0は4目とも10℃を中心に7~14℃の範囲にある。高温障害は平均29~31℃で27~34℃の範囲を示す。したがってこの4目の間には、T0と高温障害に関しては、違いが認められなかった』という。注:T0とは最低発育限界温度(又は発育零点)の事である。

          T0(最低発育限界温度) Heat stress(高温障害温度域)
Coleoptera(コウチュウ目)  10.9±2.5℃        29.14±2.7℃
Hemiptera(カメムシ目)    10.8±3.83℃         30.4±2.5℃
Hymenoptera(ハチ目)    10.2±2.62℃      31.5±2.4℃
Lepidoptera(チョウ目)   10.2±2.33℃      30.9±2.6℃

したがって、カブトムシを含むコウチュウ目の「最低発育限界温度」は10.9±2.5℃(8.4~13.4℃)、「高温障害温度域」は29.14±2.7℃(26.4~31.8℃)である。 

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(10/28”大人買い”記録更新。バナナを近所の八百屋で4房108円で購入)

(7)「最短発育温度」は昆虫一般で30℃、コウチュウ目では29.14℃

このように「高温障害温度域」は昆虫一般で30±2.0℃(28~32℃)、カブトムシを含むコウチュウ目では29.14±2.7℃(26.4~31.8℃)である。そして「最短発育温度」(発育速度が最大となる温度)は「昆虫の高温障害温度域」の中央値である。したがって「最短発育温度」(発育速度が最大となる温度)は昆虫一般で30℃、カブトムシを含むコウチュウ目では29.14℃である。

(8)まとめ

①昆虫は一般に「発育有効温度帯」(一般に10℃~35℃)の範囲内では、外気温がその上限(最高発育限界温度)に近づくほど「発育速度」や「反応速度」は速くなる。しかし、外気温が「昆虫の高温障害温度域」(一般に30±2.0℃)に突入すると、高温によるストレス(「高温障害」)を受け始め、「最短発育温度」(一般に30℃)をピークに昆虫の「発育速度」や「反応速度」は逆に遅くなる。

②なお、カブトムシを含むコウチュウ目の「最低発育限界温度」は10.9±2.5℃(8.4~13.4℃)、「高温障害温度域」は29.14±2.7℃(26.4~31.8℃)である。  

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(柄をラップで巻き、全体にラップして、冷蔵庫の野菜室に入れると長く持つ)

 3.昆虫の「高温障害の症状」(「生理的障害:一般に28~32℃」「産卵不能障害:一般に32~35℃」「致死:一般に35℃~」「即死:一般に42~50℃」)

それでは、外気温が「昆虫の高温障害温度域」(一般に30±2.0℃)に突入すると、昆虫はどのようなストレス(「高温障害」)を受けるのであろうか?

参考資料1:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」によれば、『高温による生理的障害である孵化率や羽化率の低下、成虫寿命の短縮、産卵数の減少などが、最短発育温度の付近や、それより下回る高い温度域でも見られる。 また、最短発育温度を2~3℃上回っただけで飼育中の個体が全部死んだり、成虫になっても産卵能力がなかったりする。Mason and Strait (1998)によれば、多くの 昆虫種は最短発育温度をわずか5℃上回るだけで致死温度になる。42~50℃に数分から数時間暴露することで 90%の死亡をもたらすという』 

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 (バナナが大好きな2匹目オス(茶)。毎日、バナナで口や鼻が塞がってしまう)

したがって、昆虫の「高温障害の症状」は、以下のように分類できる。

(1)「高温による生理的障害」(一般に28~32℃)≒「真夏日

①最短発育温度(一般に30℃)の付近やそれより下回る高い温度域(一般に28~32℃)では、「高温による生理的障害」(孵化率や羽化率の低下、成虫寿命の短縮、産卵数の減少)が発生する。
②この温度域は「夏にはごく日常的に経験する温度」、すなわち「真夏日」(最高気温30℃以上)の気温に相当する。
③この温度域は「最高発育限界温度(一般に35℃)」を下回る温度であるため、昆虫の発育や活動は可能であり、子孫を残すことが出来る。

(2)「高温による産卵不能障害」(一般に32~35℃)≒「真夏日猛暑日

①最短発育温度(一般に30℃)を2~3℃上回った温度域(一般に32~35℃)では、「高温による産卵不能障害」(成虫になっても産卵能力が無い)が発生する。
②この温度域は「夏にはごく日常的に経験する温度」、すなわち「真夏日」(最高気温30℃以上)の気温に相当する。
③この温度域は「最高発育限界温度(一般に35℃)」を下回る温度であるため、昆虫の発育や活動は可能であるが、産卵不能となる可能性が高いため、子孫を残すことが困難となる。  

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(10月最後の”秋のカブトムシ”の日向ぼっこ。11月は出来るだろうか?)

(3)「高温による致死」(一般に35℃以上)≒「猛暑日

①多くの 昆虫種は最短発育温度(30℃)をわずか5℃上回るだけで致死温度(35℃)になる。
②この温度域は「夏には稀に経験する温度」、すなわち「猛暑日」(最高気温35℃以上)の気温に相当する。
③この温度域は「最高発育限界温度(一般に35℃)」を上回る温度であるため、昆虫の発育や活動は停止し、徐々に死に至る。

(4)「高温による即死」(一般に42~50℃)≒「記録的な猛暑日

①42~50℃に数分から数時間暴露することで昆虫種の 90%の死亡をもたらす。
②この温度域は「夏でもほとんど経験しない温度」、すなわち「記録的な猛暑日」(最高気温40℃以上)の気温に相当する。
③この温度域は「最高発育限界温度(一般に35℃)」を遥かに上回る温度帯であるため、昆虫の発育や活動は停止し、「即死」に近い状態で死に至る。

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(飼育ケースの掃除中は、炭木ごとカブトムシは退避してもらう)

 (5)まとめ

外気温が「昆虫の高温障害温度域」(一般に28~32℃)に突入すると、孵化率や羽化率の低下、成虫寿命の短縮、産卵数の減少等の「生理的障害」が発生する。32~35℃の温度域では「産卵不能障害」が発生し、子孫を残すことが困難となる。更に「最高発育限界温度(一般に35℃)」を上回ると昆虫の発育や活動は停止し、徐々に死に至る。42℃以上の温度域では「即死」に近い状態で死に至る。

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(夜は飼育ケースを段ボールの中へ。その横で、育った猫草を食べる猫たち)

4.”晩秋(11月)のカブトムシ”の様子

2匹目オス(茶)は、今日(11/5)で羽化後117日目を迎えた。したがって、1匹目オス(赤)より22日寿命を延ばしている。

但し「毎日の健康診断チェック」では、半分アラートが出たままである。左後ろ足を動かせない。「木にしがみつく力(体力)」も前回同様、衰えたままだ。

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(今日(11/5)で羽化後117日目を迎えた2匹目オス(茶))

前回設置した”湯たんぽ”の効果があったようで食事の時間は増えている。一日中バナナに顔をうずめている。口や鼻がバナナにまみれて塞がってしまうので、ウエットティッシュで毎日拭き取っている。排泄の量は極端に減ったままである。

①夜間は、マットの上に出て活動していること(食事・排泄など)⇒〇。
②木にしがみつく力が強いこと(体力)⇒△。
③日中は、マットの下に潜っていること(休息・太陽光や熱の遮断)⇒×。

左後ろ足を動かせないから?それとも低温だから?理由はよくわからないが、飼育ケース内をほとんど動き回らない。ゆっくり”代謝”を行って、その分、長生きしているのかもしれない。

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(左後ろ足が動かせない2匹目オス(茶)。今日も頑張って生きてます)

参考資料1:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」 

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/publish/bulletin/niaes31-1.pdf