カブトムシと地球温暖化④「”猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死”が教える”木陰効果”の限界」(これまで「夏の昆虫」たちは、雑木林の木陰によって「猛暑による高温」から守られてきた(木陰効果-2.1℃)。そのため、例年は35℃を超える猛暑日であっても、林内気温が「昆虫の致死温度(35℃)」を超えることはほとんど無かった。今年7月、世界各地で記録的な猛暑が広がった。「猛暑の高温域の中心(例年35℃台)」が初めて37℃台にシフトし、雑木林の”木陰効果”は徐々に効力を失った)
(11/7撮影:立冬の東京の最高気温は20.0℃。カブトムシもベランダで日光浴)
1.”夏の虫たち”を代表するセミ、立冬(11月7日)に現れる
wikipedia(フリー百科事典)によると、「立冬」(11月7日)とは「秋が極まり冬の気配が立ち始める日」である。東京(北緯35度41.5分)の「平年気温(1981~2010 年の30年間の平均値)」では、「立冬」(11月7日)の翌日から「一日の最低気温」が10℃を下回る。朝方の気温が、昆虫の「最低発育限界温度」(一般に10℃)を下回るので、平年であればカブトムシの幼虫は地中深くに潜り、”秋の虫たち”も地上から姿を消す頃である。
しかし、今年は”夏の虫たち”を代表するセミが、立冬(11月7日)に現れたようだ。東京都心では11月5日から平年に比べ、1日の最高気温が2℃高い日が続き、新宿中央公園では立冬(11月7日)なのにセミの鳴き声が聞かれたという。wikipedia(フリー百科事典)によると、「温暖化が進む近年では、東京などの都市部や九州などでは、10月に入ってもわずかながらセミが鳴いていることも珍しくなくなった」という。
(1)『新宿中央公園管理事務所の富田広施設運営係員は「5年ほどここで仕事をしていますが、この時期にセミの声を聞くのは初めてです。まさかという思いです」と話していました』
(2)『セミの生態に詳しい大阪市立自然史博物館の初宿成彦学芸員は「11月以降にセミの鳴き声が聞こえるのは記憶になく、非常に珍しい。セミは成虫になって地上に出てからの3日間程度気温が高いと、鳴き始めることが知られていて、ここ数日、暖かい日が続いたため、活動が活発になっている可能性がある」と指摘しています』
(11/10撮影:この日の最高気温は22.8℃。1ヶ月ぶりにベランダでマット交換)
2.”夏の虫たち”を襲った「今年の夏の猛暑」
今年の夏、 兵庫県のカブトムシ観察施設で猛暑によりカブトムシ3000匹が衰弱死したというニュースがあった。この「大規模なカブトムシの衰弱死」の現象もまた、「立冬に出現したセミ」の現象のように「温暖化が進む近年では、珍しくない」と言われる日が来るのかもしれない。
前回述べたように、参考資料1:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」によれば、多くの 昆虫種は最短発育温度(30℃)をわずか5℃上回るだけで致死温度(35℃)になる。
しかし、例年、夏には猛暑(最高気温35℃以上)が発生する。このような「大規模なカブトムシの衰弱死」が今年突然発生した原因は何だろうか?
神戸新聞NEXT|総合|猛暑で観察施設のカブトムシ激減 衰弱死が3千匹
(1)『兵庫県市川町下牛尾の「リフレッシュパーク市川」内のカブトムシ観察施設のカブトムシが7月以降、次々と衰弱死し、残り数十匹となった。同パークなどによると、累計で3千匹近くが死んだという。猛暑の影響とみられ、過去約20年間で例のない被害という』
(2)『同パークの「かぶとむしど~む」は1996年から毎年夏季限定で営業。例年、ネットで囲われた約千平方メートルのコナラ林に数百匹を放ち、その後、死んで減る分を補う』
(3)『気象庁によると、同町に近い福崎町の観測点では、7月14日以降14日連続で猛暑日となり、24日には過去最高の38・8度を記録した。同社は「ネットで囲っている以外はそのままの自然環境。これだけ暑い日が続いて雨も降らないと、対策がない」と肩を落とす』
(マット交換後も”昨日のバナナ”に食らいつく”晩秋(11月)のカブトムシ”)
3.「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」のインパクト
このような「大規模なカブトムシの衰弱死」は、今年だけに限った現象なのであろうか?また、特定の場所や地域に限った現象なのであろうか?上記の記事を参考に、この「大規模なカブトムシの衰弱死」が発生した時期・範囲・地域・頻度・原因を考察してみよう。
(1)この現象が発生した時期(世界各地で記録的な猛暑が発生した時期)
①上記の記事にある通り、この現象が発生した時期は今年の「7月以降」であり、「7月14日以降14日連続で猛暑日となり、24日には過去最高の38・8度を記録した」という。その前日(7月23日)、埼玉県熊谷市(北緯36度09.0分)で「国内の観測史上最高」となる41.1度を記録し、東京都青梅市(北緯35度47.3分)で「都内初の40度超え」となる40.8度を記録した。
②世界気象機関(WMO)は、7月24日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で記者会見し、世界各地で記録的な猛暑が広がっていると発表した(北極圏では30度、日本では40度、米国では50度を超えた)。そして、西日本を襲った豪雨災害も含め、一連の異常気象は「温暖化ガスの増加による長期的な地球温暖化の傾向と関係している」と分析した。
世界の異常気象「地球温暖化と関係」 国際機関 (写真=AP) :日本経済新聞
③このように、この現象が発生した時期は、ちょうど世界各地で記録的な猛暑が発生した時期である。したがって、世界各地で今後増々「温暖化ガスの増加による長期的な地球温暖化の傾向」が強まるに従って、来年以降もこのような「大規模なカブトムシの衰弱死」は発生する可能性が十分あると推測される。
(11/11撮影:近所のもう一つの公園。8月以来の散策。中央の木陰に鳩の群れ)
(2)この現象が発生した範囲(一般の雑木林でも発生していた可能性がある)
①上記の記事にある通り、この現象が発生したカブトムシ観察施設「かぶとむしど~む」は、「約千平方メートルのコナラ林」であり、「ネットで囲っている以外はそのままの自然環境」である。
②したがって、このような「大規模なカブトムシの衰弱死」は、このカブトムシ観察施設「かぶとむしど~む」だけではなく、「一般の雑木林」でも発生していた可能性があると推測される。
(3)この現象が発生した地域(東京・名古屋・大阪・福岡とほぼ同緯度)
①上記の記事にある通り、この現象が発生した場所は、兵庫県市川町であり、同町に近い気象庁の観測地は「福崎」(北緯34度57.0分)である。つまり、東京(北緯35度41.5分)、名古屋(北緯35度10.0分)、大阪(北緯34度40.9分)、福岡(北緯33度34.9分)とほぼ同緯度の地域である。
②したがって、10/26ブログ「カブトムシと地球温暖化②」で述べたように、参考資料2:気象庁「地球温暖化予測情報(第2章 気温の将来予測)」によれば、今世紀末までに、東京・名古屋・大阪・福岡と同様に、兵庫県市川町も、南西諸島の「屋久島の平年気温」に置き変わり、現在の屋久島のような「温帯最下部のほぼ亜熱帯に属する地域」になると推測される。
③したがって、このような「大規模なカブトムシの衰弱死」は、兵庫県市川町だけではなく、東京・名古屋・大阪・福岡とほぼ同緯度の地域の一般の雑木林でも発生していた可能性があると推測される。
(右手は紅葉が目立ってきた。手前が桜、奥の林はクヌギやコナラ)
(4)この現象が発生した頻度(過去22年間(1996年~2017年)は未発生)
①上記の記事にある通り、「かぶとむしど~む」は1996年から毎年営業し、「過去約20年間で例のない被害」であるという。
②したがって、このような「大規模なカブトムシの衰弱死」は、過去22年間(1996年~2017年)は未発生であったと推測される。
(5)この現象が発生した原因(今年の「7月14日以降の14日連続猛暑」)
①上記の記事にある通り、この現象が発生した原因は「7月以降」の「猛暑」とされる。「7月14日以降14日連続で猛暑日となり、24日には過去最高の38・8度を記録した」という。「福崎」の7月の気象記録を調べると、この地域周辺の今年7月最初の猛暑日は7月14日である。したがってこの現象が発生した原因は今年の「7月14日以降の14日連続猛暑」と推測される。
②しかし、例年、夏には猛暑(最高気温35℃以上)が発生する。それでは、このような「大規模なカブトムシの衰弱死」が今年突然発生した原因は何だろうか?「7月14日以降の14日連続猛暑」には、どのような意味があるのだろうか?
(左手は緑鮮やか。秋は”樹木の種類の違い”を”葉の色”で鮮明に教えてくれる季節)
4.「福崎」で観測された今年と例年の「真夏(7~8月)の猛暑」の違い
そこで、「福崎」で観測された今年と例年の「真夏(7~8月)の猛暑」の違いを考察してみよう。以下は、「かぶとむしど~む」が営業を始めた1996年以降の「福崎」の「過去22年間の真夏(7~8月)の猛暑」の気象記録である。
福崎(北緯34度57.0分)
7~8月 最高気温 猛暑日数 35℃台 36℃台 37℃台 38℃台
1996年 36.7℃ 6日 4日 2日
1997年 34.8℃ 0日
1998年 35.8℃ 2日 2日
1999年 37.6℃ 1日 - 1日
2000年 37.6℃ 11日 7日 4日
2001年 37.6℃ 13日 9日 2日 1日 1日
2002年 37.4℃ 9日 5日 3日 1日
2003年 35.6℃ 4日 4日
2004年 38.0℃ 11日 10日 - - 1日
2005年 37.3℃ 10日 7日 2日 1日
2006年 38.1℃ 13日 6日 4日 2日 1日
2007年 38.4℃ 11日 6日 3日 1日 1日
2008年 36.8℃ 15日 9日 6日
2009年 35.9℃ 4日 4日
2010年 37.6℃ 24日 5日 16日 3日
2011年 36.2℃ 11日 8日 3日
2012年 37.8℃ 18日 10日 6日 2日
2013年 37.3℃ 16日 7日 7日 2日
2014年 37.1℃ 6日 3日 2日 1日
2015年 37.9℃ 13日 2日 8日 3日
2016年 37.6℃ 22日 15日 5日 2日
2017年 36.0℃ 12日 11日 1日
22年平均 37.0℃ 10.5日 6.0日 3.4日 0.8日 0.2日
⇩
2018年 38.8℃ 30日 9日 9日 11日 1日
(2.85倍)(1.5倍)(2.64倍)(13.75倍)(5.0倍)
注1:2010年の猛暑日数は9月発生分(6日)を含めると合計30日である。
注2:2010年及び2015年に「12日連続猛暑」が発生している。2010年は8/29(最高気温34.6℃)を「猛暑日」と見做すと実質「20日連続猛暑」となる。
(桜の木に何かついている・・。近寄ってみる。キノコ?)
以上の記録から以下の事がわかる。
(1)例年の「猛暑の高温域の中心」は35℃台
22年平均を見ると、例年の「真夏(7~8月)の猛暑」は、1年に約10日(10.5日)の割合で発生し、その内訳は「35℃台:36℃台:37℃台:38℃台=6:3.4:0.8:0.2」である。37℃台の猛暑は1年に1日未満の割合(0.8日:1年に一度有るか無いか)で発生し、38℃台の猛暑は5年に1日の割合(0.2日:5年に一度有るか無いか)で発生している。これは、例年の「猛暑の高温域の中心」は35℃台であったことを示している(例外は過去22年間で「2010年」「2015年」の2年のみである。この2年は36℃台にシフトしている)。
(2)今年初めて「猛暑の高温域の中心」が37℃台にシフト
一方、今年の「真夏(7~8月)の猛暑」は例年の約3倍発生し(30日)、その内訳は「35℃台:36℃台:37℃台:38℃台=9:9:11:1」である。例年は1年に一度有るか無いかの「37℃台の猛暑日」が、今年は突然二桁も発生している(11日)。これは、今年の「猛暑の高温域の中心」は37℃台であったことを示している
(3)「38℃台の猛暑(38.8℃)」「猛暑日数(30日)」「連続猛暑(14日連続)」は主な相違点ではない
今年の「真夏(7~8月)の猛暑」の特徴として「38℃台の猛暑(38.8℃)」、「猛暑日数(30日)」、「連続猛暑(14日連続)」がある。しかし、上記の通り、「38℃台の猛暑」(1日)は過去に計4回発生している。「猛暑日数(30日)」も過去に発生している(注1)。「連続猛暑」(14日連続)も過去に発生している(注2)。したがって、これらは、主な相違点ではない。
(4)主な相違点は「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が37℃台にシフトした事
このように、「福崎」の今年の「真夏(7~8月)の猛暑」と例年の「真夏(7~8月)の猛暑」の主な相違点は、 「37℃台の猛暑日」の発生日数の急増であり(13.75倍)、例年の「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が、今年初めて37℃台にシフトした点である。例年は1年に一度有るか無いかの「37℃台の猛暑日」が、今年は突然二桁も発生している(11日)。したがって、「大規模なカブトムシの衰弱死」が今年突然発生した主な原因は、「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が、今年初めて37℃台にシフトしたためであると推測される。
(ズーム機能は使わずに、被写体に近寄って撮影。このキノコの名は?)
5.「福崎」で観測された「7月14日以降の14日連続猛暑」の「気温帯」
それでは、「37℃台の猛暑日」の発生日数が急増し、「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が37℃台にシフトすると、どのような「気温帯」になるのだろうか?以下は、「福崎」で観測された「7月14日以降14日連続猛暑」の気象記録である(なお、猛暑の発生時間のうち、1時間以下は最大値を取って1時間とした)。
福崎(北緯34度57.0分)
2018年 平均気温 最高気温 最低気温 35℃台 36℃台 37℃台 38℃台
7月 (猛暑の発生時間)
7/14 30.0℃ 36.8℃ 24.0℃ 1時間 1時間
7/15 30.2℃ 37.3℃ 25.1℃ 3時間 2時間 1時間
7/16 30.5℃ 37.5℃ 24.5℃ 1時間 3時間 1時間
7/17 30.6℃ 37.5℃ 25.3℃ 1時間 3時間 1時間
7/18 30.6℃ 37.3℃ 25.9℃ 1時間 1時間 1時間
7/19 30.4℃ 37.5℃ 25.0℃ 4時間 0時間 1時間
7/20 30.0℃ 37.2℃ 25.1℃ 1時間 1時間 1時間
7/21 29.6℃ 36.2℃ 25.2℃ 1時間 1時間
7/22 29.8℃ 36.6℃ 24.7℃ 2時間 2時間
7/23 31.0℃ 37.3℃ 25.5℃ 3時間 1時間 1時間
7/24 31.0℃ 38.8℃ 25.2℃ 1時間 2時間 2時間 1時間
7/25 29.9℃ 37.0℃ 23.6℃ 1時間 1時間 1時間
7/26 30.1℃ 36.6℃ 24.8℃ 5時間 1時間
7/27 28.7℃ 35.4℃ 24.8℃ 1時間
14日平均 30.2℃ 37.1℃ 24.9℃ 1.8時間 1.3時間 0.7時間 0.1時間
⇧ ⇧
平年値 25.9℃ 31.0℃ 22.1℃
(裏側にもう一つ。更に大きいキノコがある。これはサルノコシカケ?)
以上の記録から以下の事がわかる。
(1)「平年に比べ1日の平均気温が4.3℃高い気温帯」が発生
14日平均を見ると、1日の平均気温は30.2℃である。そして、平年(1981~2010 年の30年間)の7月の平均気温は25.9℃である。したがって「7月14日以降14日連続猛暑」は「平年に比べ1日の平均気温が4.3℃高い気温帯」であったことになる。これは、今世紀末までに予想される東京:最暖月(8月)の平均気温(30.5± 0.6℃)に相当する。
(2)「平年に比べ1日の平均気温が4.3℃高い気温帯」の内容
14日平均を見ると、1日の平均気温は30.2℃、最高気温は37.1℃である。したがって、「日中の最低気温」は30.2℃、「日中の気温」は30.2℃~37.1℃である。そのうち、35℃台の気温は1.8時間、36℃台は1.3時間、37℃台は0.7時間、38℃台は0.1時間の割合である。したがって、35℃以上の気温が発生した時間は3.9時間、36℃以上は2.1時間、37℃以上は0.8時間(1日に1時間弱)、38℃以上は0.1時間(1日に10分弱)の割合である。
(3)「平年に比べ1日の平均気温が4.3℃高い気温帯」が発生したことにより、翌日以降も「37℃以上の気温」が連日発生しやすい状況が生まれた
このように、「37℃台の猛暑日」の発生日数が急増し、「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が37℃台にシフトすると、「平年に比べ1日の平均気温が4.3℃高い気温帯」が発生し(日中の気温は30.2℃~37.1℃)、翌日以降も「37℃以上の気温」が連日発生しやすい状況が生まれたため(14日連続猛暑)、このような「大規模なカブトムシの衰弱死」をもたらしたと推測される。
(1本の桜の木に2枚の「猿の腰掛け」。他の桜の木にはついていない)
6.「雑木林の林内気温」(「気象庁発表の気温」-「雑木林の木陰効果」)
このように、「大規模なカブトムシの衰弱死」が今年突然発生した原因は、「37℃台の猛暑日」の発生日数が急増し、「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が37℃台にシフトしたためである。「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」の気温境界線は37℃であったと推測できる。
しかし、前回述べたように、参考資料1:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」によれば、多くの 昆虫種は最短発育温度(30℃)をわずか5℃上回るだけで致死温度(35℃)になる。
それでは、昆虫の致死温度(35℃)と「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」の気温境界線(37℃)の差は何であろう?
(1)「雑木林の林内気温」(「気象庁発表の気温」-「雑木林の木陰効果」)
真夏の樹木の葉は雑木林全体を覆い隠す。そのため「雑木林の林内気温」は「雑木林の外の気温」(「気象庁発表の気温」)より通常低くなる。「夏の昆虫」たちは、雑木林の木陰によって「猛暑による高温」から守られている。したがって「雑木林の林内気温」は「気象庁発表の気温」から「雑木林の木陰効果」を差し引いて捉えることになる。
(エクアドル産の高糖度バナナを近所の”肉屋”で1房¥108で買ってみた)
(2)「雑木林の木陰効果」(一般に-2.1±0.3℃)
それでは「雑木林の木陰効果」は一般に何度程度であろうか?
9/7ブログ「カブトムシの大きさの秘密③」では、「カブトムシの幼虫の発育速度や成虫の大きさ」を決定づける「深度別地温」の考察を行った。その際に参考にした「国立科学博物館附属自然教育園」(東京都港区白金台五丁目)の参考資料3:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」には、「自然教育園内の雑木林の気温」と併せて「都市域の大手町の気温」が5年分(2010年~2014年)併記されている。
そこで、この5年分(2010年~2014年)のデータから、夏(6月~8月)のデータのみを抜粋し、「自然教育園内の雑木林の気温」と「都市域の大手町の気温」を比較すると、以下の通りである。
月別平均値 自然教育園内の雑木林 都市域の大手町 気温差
2010年6月 21.5℃ 23.6℃ -2.1℃
2010年7月 25.6℃ 28.0℃ -2.4℃
2010年8月 27.4℃ 29.6℃ -2.2℃
2011年6月 20.8℃ 22.8℃ -2.0℃
2011年7月 25.3℃ 27.3℃ -2.0℃
2011年8月 25.6℃ 27.5℃ -1.9℃
2012年6月 19.6℃ 21.4℃ -1.8℃
2012年7月 24.2℃ 26.4℃ -2.2℃
2012年8月 26.7℃ 29.1℃ -2.4℃
2013年6月 20.9℃ 22.9℃ -2.0℃
2013年7月 25.0℃ 27.3℃ -2.3℃
2013年8月 26.6℃ 29.2℃ -2.6℃
2014年6月 21.4℃ 23.4℃ -2.0℃
2014年7月 24.5℃ 26.8℃ -2.3℃
2014年8月 25.6℃ 27.7℃ -2.1℃
(15カ月平均) -2.1℃
以上の記録から以下の事がわかる。
15カ月平均を見ると、「自然教育園内の雑木林の気温」と「都市域の大手町の気温」との「気温差」は平均-2.1℃である(最大-2.6℃、最小-1.8℃)。したがって、夏(6月~8月)の日中の「雑木林の木陰効果」は一般に-2.1±0.3℃であると推測される。
(11/11撮影:この日の最高気温は20.1℃。ベランダで日光浴をするカブトムシ)
7.「7月14日以降14日連続猛暑」(福崎)の際の「日中の林内気温」
(1)「日中の林内気温」(28.1±0.3℃~35.0±0.3)
それでは、「雑木林の木陰効果」(一般に-2.1±0.3℃)を考慮すると、「7月14日以降14日連続猛暑」(福崎)の際の「日中の林内気温」はどうであっただろうか?
①「7月14日以降14日連続猛暑」(福崎)の際の「日中の気温」は30.2℃~37.1℃である。「日中の林内気温」は、「気象庁発表の日中の気温」から「雑木林の木陰効果」(一般に-2.1±0.3℃)を差し引いて捉えることになる。したがって、「日中の林内気温」は28.1±0.3℃~35.0±0.3℃であったと推測される。
②そして「7月14日以降14日連続猛暑」(福崎)の際の「日中の気温」(30.2℃~37.1℃)のうち、37℃以上の気温が発生した時間は0.8時間(1日に1時間弱)である。したがって、「日中の林内気温」(28.1±0.3℃~35.0±0.3℃)のうち、35℃以上の気温が発生した時間は、日中の平均0.8時間(1日に1時間弱)であると推測される。
(11/11撮影:日光浴の最中に翅を広げて飛ぼうとした”晩秋のカブトムシ”)
(2)「昆虫の高温障害」
この「日中の林内気温」を、前回述べた「昆虫の高温障害」の視点から考察すると、以下の通りである。
①「日中の林内気温」は28.1±0.3℃~35.0±0.3℃である。つまり、日中は終始、外気温が「昆虫の高温障害温度域」(一般に28~32℃)に突入していた事になる。したがって日中地上に居るカブトムシ等の昆虫類には、孵化率や羽化率の低下、成虫寿命の短縮、産卵数の減少等の「生理的障害」や「産卵不能障害」が発生したと推測される。
②「日中の林内気温」(28.1±0.3℃~35.0±0.3℃)のうち、35℃以上の気温が発生した時間は、日中の0.8時間である。つまり、日中の林内気温が「最高発育限界温度(一般に35℃)」を上回った時間は、日中の0.8時間を占めていた事になる。したがって、その間、地上に居たカブトムシ等の昆虫類の発育や活動は停止し、徐々に死に至ったと推測される。
(通販の段ボールに入っていた包装材。飼育ケースの隙間に入れてみた)
8.まとめ
(1)今年の夏、 兵庫県のカブトムシ観察施設で猛暑によりカブトムシ3000匹が衰弱死したというニュースがあった。この現象が発生した時期は、ちょうど世界各地で記録的な猛暑が発生した時期である。世界気象機関(WMO)は、7月24日、世界各地で記録的な猛暑が広がっていると発表した(北極圏では30度、日本では40度、米国では50度を超えた)。そして、西日本を襲った豪雨災害も含め、一連の異常気象は「温暖化ガスの増加による長期的な地球温暖化の傾向と関係している」と分析した。したがって、世界各地で「長期的な地球温暖化の傾向」が強まるに従って、来年以降もこのような「大規模なカブトムシの衰弱死」は発生する可能性が十分あると推測される。
(2)この現象が発生したカブトムシ観察施設「かぶとむしど~む」は、「約千平方メートルのコナラ林」であり、「ネットで囲っている以外はそのままの自然環境」である。また、この現象が発生した場所は、東京・名古屋・大阪・福岡とほぼ同緯度である。したがって、この「大規模なカブトムシの衰弱死」は、東京・名古屋・大阪・福岡とほぼ同緯度の地域の一般の雑木林でも発生していた可能性があると推測される。
(3)この現象が発生した原因は「7月14日以降の14日連続猛暑」とされる。そして、このような「大規模なカブトムシの衰弱死」は過去22年間(1996年~2017年)は発生していない。しかし、例年、夏には猛暑(最高気温35℃以上)が発生する。このような「大規模なカブトムシの衰弱死」が今年突然発生した原因は何だろうか?
(「空間充填材としても簡単に再利用できます」と書いてある。良いかも)
(4)この現象が発生した地域の今年の「真夏(7~8月)の猛暑」を例年の「真夏(7~8月)の猛暑」と比較すると、主な相違点は、 「37℃台の猛暑日」の発生日数の急増である(13.75倍)。例年の「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が、今年初めて37℃台にシフトした点である。例年は1年に一度有るか無いかの「37℃台の猛暑日」が、今年は突然二桁も発生している(11日)。したがって、「大規模なカブトムシの衰弱死」が今年突然発生した主な原因は、「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が、今年初めて37℃台にシフトしたためであると推測される。
(5)そして、「37℃台の猛暑日」の発生日数が急増し、「猛暑の高温域の中心」(35℃台)が37℃台にシフトすると、「平年に比べ1日の平均気温が4.3℃高い気温帯」が発生し(日中の気温は30.2℃~37.1℃)、翌日以降も「37℃以上の気温」が連日発生しやすい状況が生まれたため(14日連続猛暑)、このような「大規模なカブトムシの衰弱死」をもたらしたと推測される。
(6)これまで「夏の昆虫」たちは、雑木林の木陰によって「猛暑による高温」から守られてきた(木陰効果-2.1℃)。そのため、例年は35℃を超える猛暑日であっても、林内気温が「昆虫の致死温度(35℃)」を超えることはほとんど無かった。今年7月、世界各地で記録的な猛暑が広がった。「猛暑の高温域の中心(例年35℃台)」が初めて37℃台にシフトし、雑木林の”木陰効果”は徐々に効力を失った。これが「猛暑によるカブトムシ3000匹衰弱死」が教える”木陰効果”の限界である。
(11/14撮影:エサ皿の左手には・・取れてしまった左後ろ足の鍵爪)
9.”晩秋(11月)のカブトムシ”の様子
2匹目オス(茶)は、今日(11/17)で羽化後129日目を迎えた。したがって、1匹目オス(赤)より34日寿命を延ばしている。しかし、11月14日に、とうとう左後ろ足の鍵爪が取れてしまった。「鍵爪の欠損」は寿命が近づいていることを意味する。右後ろ足もあまり動かない。だから「木にしがみつく力(体力)」は前足4本しかないようだ。
①夜間は、マットの上に出て活動していること(食事・排泄など)⇒〇。
②木にしがみつく力が強いこと(体力)⇒×。
③日中は、マットの下に潜っていること(休息・太陽光や熱の遮断)⇒×。
(11/15撮影:鍵爪が取れてしまった左後ろ足。右後ろ足もあまり動かない)
9/18ブログ【敬老の日番外編①】で、一昨年のお盆過ぎ(8月下旬)に、実家の庭先に現れた大きなカブトムシ(たぶん80mm超)を引き取った青年の話を書いた。その青年の話では「11月19日まで生きていた。正月まで生きるかと思った」「いろいろなエサを試したが、カブトムシを長生きさせるにはバナナが一番良かった」という。
実際に2匹目オス(茶)は、バナナを食べて長生きしている。その青年の話はやはり本当だったようだ。但し、冬が刻々と近づくにつれ、2匹目オス(茶)の生命力が消えていくのを毎日感じる。
最後に出来ることはないかと考え、この2週間は、1ヶ月ぶりにマットを交換したり、エクアドル産の高糖度バナナを与えてみたり、段ボール箱と飼育ケースの隙間に空間充填材を入れたりしてみた。しかし、最大の恩恵は、「立冬」(11月7日)を過ぎても暖かい日が続いたことであろう。東京の朝の最低気温が10℃以下になったのは11月15日からである。2匹目オス(茶)の鍵爪が取れてしまったのもその頃(11月14日:最低気温10.1℃)である。天国の1匹目オス(赤)が迎えに来る日も、近いのだろうか?
(11/17撮影:今日(11/17)で羽化後129日目を迎えた2匹目オス(茶))
(10/9撮影:天国の1匹目オス(赤)が迎えに来る日も、近いのだろうか?)
参考資料1:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/publish/bulletin/niaes31-1.pdf
参考資料2:気象庁「地球温暖化予測情報(第2章 気温の将来予測)」
参考資料3:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」
研究と標本・資料 ≫ 学術出版物 :: 国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tokyo