カブトムシの幼虫、さなぎの育て方2018年

虫好きな猫たちのために、ベランダでカブトムシの幼虫を育てる悪戦苦闘の物語

カブトムシの大きさの秘密⑤「”温度ーサイズ則””ベルクマンの法則”の視点で見る”太古の地球温暖化PETM”」(研究者「地球上のすべての化石燃料が燃やされると、地球の平均気温は2300年までに8℃上昇する」「5500万年前の温暖化では、数千年の間に甲虫類などの大きさが50~75%小さくなっていた」「昆虫類などの変温動物は温暖化の影響をダイレクトに受ける。気温が摂氏1度上がるごとに代謝が約10%活発になり小型化する」)

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(毎年、秋分の頃の気温は年平均気温に近づく。釣りシーズン到来だ)

 1.「昆虫の高温障害」

(1)「世界の大型のカブトムシ」は「高地性種」

「カブトムシの大きさの秘密④」で述べたように、「世界のカブトムシ」の中でも「世界最大」「アジア最大」と呼ばれる「世界の大型のカブトムシ」は、「高地性種」と呼ばれ、熱帯地方でも「標高が高く涼しい場所」(標高1000〜2000mの高山帯や熱帯雨林)に生息している(一方、同じ熱帯地方でも「小型種」は「平地性種」と呼ばれ、「標高が低く暖かい」平地に近い場所に生息している)。

①「中南米ヘラクレスオオカブト属 」の「大型種」の主な生息地であるアンデス山脈(最高標高6000m以上)は、富士山(最高標高3775m)を軽く越えるため、頂上付近には氷河が発達している。
②「東南アジアのアトラスオオカブト属」の「大型種」の主な生息地であるスマトラ島(最高標高3,805 m)やジャワ島(最高標高3,676 m )は、富士山(最高標高3775m)並みの高さがある。
③標高2000m以上に生息地が少ない理由は、エサ(樹液や果実)を産出する寄主植物(広葉樹林)が標高2000m以上に少ないためと推測される(例:日本の八ヶ岳連峰(最高標高2899m)は標高1,700 m以下が広葉樹林、標高約2,500 m以下が針葉樹林)。

  (2)「高地性種」は暑さに弱い(夏はエアコンによる低温飼育が必要)

①「中南米ヘラクレスオオカブト属 」の「大型種」

例:ヘラクレスオオカブト(大体18℃~28℃前後)標高1000〜2000mの高山帯
例:ネプチューンオオカブト(大体18℃~24℃前後)アンデス山脈熱帯雨林
例:サターンオオカブト(大体18℃~24℃前後 )標高1000 - 2800mの熱帯雨林

wikipedia(フリー百科事典)によると「高地性のカブトムシ全般に共通の傾向として、幼虫・成虫共に平地性種より更に暑さに弱い」「大型になる亜種、また大型の個体は標高1000〜2000mの高山帯にしか見られない」

②「東南アジアのアトラスオオカブト属」の「大型種」

例:コーカサスオオカブト(大体15℃~20℃前後)標高800-2000mの熱帯高地林

wikipedia(フリー百科事典)によると「元の生息地は赤道付近であるが、標高の高い涼しい森林に生息するため暑さには弱く、大体15℃~20℃前後が適温とされている。故にクーラー等の温度管理無しで日本の夏を越すのは厳しい」

(3)「世界の大型のカブトムシ」は「昆虫の高温障害」になりやすい

このように「幼虫・成虫共に平地性種より更に暑さに弱い」「クーラー等の温度管理無しで日本の夏を越すのは厳しい」といわれる「世界の大型のカブトムシ」を、夏の最高気温が35℃を連日超える日本で飼育する場合、「熱帯地方に生息するから」といって、「日本のカブトムシ」と同じようにベランダや庭先の日陰で「屋外飼育」すると「昆虫の高温障害」になりやすい(すぐ死んでしまう。死ななくても寿命は極端に短くなる。産卵しなくなる。産卵しても孵化しなくなる。孵化してもすぐ死んでしまう)。 

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東京スカイツリーからの定期便。水陸両用バス「SKY Duck」。左手が川の駅) 

2.「地球温暖化」による「昆虫の高温障害」

このような「昆虫の高温障害」が、飼育ケースの中ではなく、「地球温暖化」により、生息地(標高1000〜2000mの高山帯)で発生したらどうなるだろう? 

(1)選択肢(「生息できる場所への移動」「その場所での適応・進化」)

参考資料1:「昆虫の温度反応と分布域の変化」によれば、『変温動物である昆虫は温度の変化に極めて敏感である。環境変化が許容範囲を超える場合,「その場所での適応・進化」 ,「生息できる場所への移動」のいずれかで対応ができなければ,「絶滅」することになる』という。

(2)「環境変化が許容範囲を超える場合」とは、

「環境変化が許容範囲を超える場合」とは、「外気温」が「発育有効温度帯」の「最高発育限界温度」を超え、「致死温度」(「最高発育限界温度」+5℃)に迫ることである。

(3)発育有効温度帯

「変温動物」である魚類や昆虫類は、「恒温動物」である哺乳類や鳥類と違って、「発育」に必要な「温度」を自ら作り出し調整する事は出来ない。そのため、「変温動物」である昆虫の「発育」は、外気温に大きく左右され、昆虫の「発育」には「発育に有効な一定の温度の範囲」(有効温度帯)が必要とされる。それより高い温度帯や低い温度帯では発育できない(最低発育限界温度~最高発育限界温度)。

(4)最低発育限界温度(一 般に10℃以上)

昆虫は一 般に10℃以上の気温で発育し、それ以下では発育できない。10℃以下の気温になると発育を停止し、冬眠状態に入る。なお、具体的な「最低発育限界温度」は、各種昆虫の個体群ごとに異なる。

(5)最高発育限界温度(一 般に35℃以下)

昆虫は一 般に35℃以下の気温で発育し、それ以上では発育できない。35℃以上の気温になると発育を停止する。なお、具体的な「最高発育限界温度」は、各種昆虫の個体群ごとに異なる。

(6)「昆虫の高温障害温度帯」(35℃以上)と「昆虫の致死温度帯」(42~50℃)

昆虫は一 般に35℃以上の気温では「昆虫の高温障害」になりやすい(すぐ死んでしまう。死ななくても寿命は極端に短くなる。産卵しなくなる。産卵しても孵化しなくなる。孵化してもすぐ死んでしまう)。また、「昆虫の致死温度帯」(42~50℃)では昆虫種の90%が死亡すると言われている。

参考資料2:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」によれば、『高温による生理的障害である孵化率や羽化率の低 下、成虫寿命の短縮、産卵数の減少などが、最短発育温度の付近や、それより下回る高い温度域でも見られる。 また、最短発育温度を2~3℃上回っただけで飼育中の 個体が全部死んだり、成虫になっても産卵能力がなかっ たりする。Mason and Strait (1998)によれば、多くの 昆虫種は最短発育温度をわずか5℃上回るだけで致死温度になる。42~50℃に数分から数時間暴露することで 90%の死亡をもたらすという』

(7)低緯度地域に生息する昆虫類は温度適応の幅は狭い (絶滅リスクが高い)

参考資料2:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」によれば、『カリフォルニア大学の研究チームは、低緯度地域に生息する変温動物、とりわけ昆虫類は温度適応の幅が狭く、それゆえ気温上昇につれて適応度が減少しやすく、 絶滅リスクが高いことを警告している(Deutsch et al., 2008)』という。

「世界の大型のカブトムシ」の飼育温度は、以下の通りである。 

例:ヘラクレスオオカブト(大体18℃~28℃前後)
例:ネプチューンオオカブト(大体18℃~24℃前後)
例:サターンオオカブト(大体18℃~24℃前後 )
例:コーカサスオオカブト(大体15℃~20℃前後)

一方、日本のカブトムシの飼育温度は昆虫一般の有効温度帯(最低発育限界温度10℃~最高発育限界温度35℃)にほぼ該当する。例えば、現在飼育している2匹の日本のカブトムシはベランダ飼育なので成虫になってから経験している外気温は最低気温14.1℃(9/28)~最高気温39℃(7/23)である。一応、日陰で飼育しているので、約15℃~35℃の範囲内であろう。これは昆虫一般の有効温度帯(最低発育限界温度10℃~最高発育限界温度35℃)にほぼ該当する。

以上から、低緯度地域に生息する「世界の大型のカブトムシ」の温度適応の幅は、中緯度地域に生息する日本のカブトムシよりかなり狭いことがわかる。

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(魚の夕食時(夕マズメ)。15時54分、キチヌ(キビレ)の未成魚、約13㎝)

3.「地球温暖化」に伴う「生物の絶滅」の割合

「国立環境研究所 地球環境研究センター」(温暖化と生物の絶滅)によれば「地球温暖化」に伴う「生物の絶滅」の割合は以下の(1)~(3)の通りである。

 (1)地球の気温が1〜3°C上昇すると生物種の20〜30%が絶滅の危機

『2007年に公表された気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)第4次評価報告書では「地球の気温が1〜3°C上昇すると生物種の20〜30%が絶滅の危機に瀕する」と予測されました。一方、最新のリスク予測研究に基づけば、地球の温度が2°C、3°C、および4.3°C上昇した場合、絶滅の危険にさらされる種は、それぞれ5.2%、8.5%および16%になると試算されています』

(2)地球の気温が2〜3°C上昇しても「恒温動物」は絶滅しにくい

『こうした予測から、生物の一種である人間は大丈夫なのか?ということが気になります。まず、生物学的に人間という生物種そのものは、恒温動物であり、温度変化には強い種です。さらに衣類や住居などの人工物によって身を守る文化的な適応力も身につけているので、気温が2〜3°C上昇しても絶滅することはないと考えられます』

 (3)実際に近年「高山帯」では暑さに弱い生物が温度上昇が原因で減少

『実際に近年、高山帯や北極などの寒冷地において、気温の上昇が原因で減少していると考えられている生物種はいくつか報告されています。暑さに弱い生物が温度上昇で滅んでいくという事例は直感的にもよくわかる話です』

(4)絶滅の危険にさらされる種の大半は「変温動物」(魚類・昆虫類)

以上からわかることは「地球の気温が1〜3°C上昇すると生物種の20〜30%が絶滅の危機に瀕する」と言われる種の大半は「恒温動物」(哺乳類・鳥類)ではなく、「変温動物」(魚類・昆虫類)である、ということである。「変温動物」である魚類や昆虫類は、「恒温動物」である哺乳類や鳥類と違って、「発育」や「活動」に必要な「温度」を調整する事は出来ないからである。また、「変温動物」である昆虫類の中でも「高山帯」に生息する「高地性種」は、暑さに弱いため、近年の気温の上昇が原因で既に減少している、ということである。

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(16時02分、マハゼの未成魚、約15㎝。キチヌ(キビレ)より大きい)

4.「生息できる場所への移動」(「南進・北進」又は「高所への移動」)

(1)「1℃の上昇」は「緯度で100km」又は「高度で150m」の移動に相当する

参考資料1:「昆虫の温度反応と分布域の変化」によれば、『1℃の上昇は緯度で100km,高度で150mの違いで, 2100年末に予想される4℃の上昇は,400km(高度で 600m)の移動に相当する』という。 

(2)「生息できる場所への移動」は「寄主植物の分布」によって制限される

参考資料1:「昆虫の温度反応と分布域の変化」によれば、『昆虫はその生存を植物に依存している。ところが 自然植生の移動速度は温暖化の速度についていけない。 そのため昆虫の北進も寄主植物の分布によって制限される』という。

 (3)寄主植物(広葉樹林)が少ない「高所への移動」には限界がある

例えば、「中南米ヘラクレスオオカブト属 」の「大型種」の主な生息地であるアンデス山脈は最高標高6000m以上であるが、生息地は標高1000〜2000mに留まる。その理由は、先ほど述べたように、エサとなる樹液や果実を産出する寄主植物(広葉樹林)が少ないためと推測される(例:日本の八ヶ岳連峰(最高標高2899m)は標高1,700 m以下が広葉樹林、標高約2,500 m以下が針葉樹林)。

従って、温暖化により寄主植物(広葉樹林)が「現在より標高の高い涼しい場所(標高2000〜6000m)」へ生息地を広げることが出来れば、その寄主植物(広葉樹林)に依存している昆虫類の「高所への移動」も可能であろう。

しかし、植物は動物と違って移動できない。寄主植物(広葉樹林)に依存している昆虫類は、「現在より標高の高い涼しい場所(標高2000〜6000m)」で寄主植物(広葉樹林)が発育するのを何年も待つしかないだろう(例:成長が早いと言われるクヌギでさえ、木材として利用できるまでには植林から10年かかる)。このように「自然植生の移動速度は温暖化の速度についていけない」のである。寄主植物(広葉樹林)が少ない「高所への移動」には限界があると言えるだろう。

(4)「北の地域」に生息環境は無い

「国立環境研究所 地球環境研究センター」(温暖化と生物の絶滅)によれば、『既に「北の地域」とされる先進諸国の自然環境は撹乱が進み、生物の生息地はズタズタに分断化されており、南の生物が北へ逃げようとしても生息環境がそこに無い以上、逃げられない訳です』という。

(5)「移動可能な場所」は「寄主植物の分布」が南に広がる「南の地域」

このように「高所への移動」には限界があり、また、「北の地域」に生息環境は無いのであれば、「移動可能な場所」は「寄主植物の分布」が南に広がる「南の地域」のみということになる。

例えば、「中南米ヘラクレスオオカブト属 」の「大型種」の主な生息地であるアンデス山脈は、wikipedia(フリー百科事典)によると「北緯10度から南緯50度まで南北7500km、幅750kmにわたる世界最長の連続した褶曲(しゅうきょく)山脈である」という。

したがって、アンデス山脈付近では北緯10度から南緯50度まで南北7500kmの広範囲にわたって「寄主植物(広葉樹林)の分布」が存在すると推測される。寄主植物(広葉樹林)に依存している昆虫類は、涼しい生息地を求めて、アンデス山脈に沿って「南進」する余地は十分あると言えるだろう。

(6)海に囲まれている島では「南進・北進」に限界がある

一方、「東南アジアのアトラスオオカブト属」の「大型種」の主な生息地であるスマトラ島(最高標高3,805 m)やジャワ島(最高標高3,676 m )は、海に囲まれている。

また、「中南米ヘラクレスオオカブト属 」の「大型種」の中でも、例えばヘラクレスオオカブトの本種である「ヘラクレス D. h. hercules」の生息地は、カリブ海のバス=テール島(最標高1,467 m)やドミニカ島(最標高1,447m)であり、海に囲まれている。

このように生息地が海に囲まれている島の場合は、「南進・北進」に限界があると言えるだろう。

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(17時33分、チヌ(クロダイ)の未成魚、約15㎝。夕飯の時間なので手仕舞い

5.「その場所での適応・進化」 とは何か?

このように「絶滅」を避けるため「生息できる場所への移動」を選択したとしても「生息できる場所への移動」が容易な個体群と困難な個体群に分かれてしまう。

そこで、「生息できる場所への移動」が困難な個体群は、「絶滅」を避けるため「その場所での適応・進化」を選択することになる。 

(1)「その場所での適応・進化」 とは「許容範囲」を広げること

「その場所での適応・進化」 とは、「変温動物」(魚類・昆虫類)が自ら「環境変化に対する許容範囲」を広げることである。つまり、「地球温暖化」に伴う「外気温」の上昇に合わせ、その個体群の「発育有効温度帯」の「最高発育限界温度」を上げることである。例えば、暑さに弱い「高地性種」が、暑さに強い「平地性種」のように「高温耐性」を身に着けることである。

(2)「適応・進化」の形は、「変温動物」(魚類・昆虫類)の「小型化」

これを「温度ーサイズ則」に当てはめれば、その「適応・進化」の形は、「変温動物」(魚類・昆虫類)の「小型化」である。

「外気温(気温・水温・地温)が「発育有効温度帯」の上限(最高発育限界温度)に近づくほど、未成魚期・幼虫期の発育速度は速まり、成長率が高くなるため、未成魚・幼虫は発育期間を著しく短縮して「小型化」した成魚・成虫へと発育を遂げる」

例えば、暑さに弱い「高地性種」が、暑さに強い「平地性種」のように「高温耐性」を身に着けると、「平地性種」のように小型化することが予想される。

①「中南米ヘラクレスオオカブト属」(「高地性種」⇒「平地性種」)

例:ヘラクレスオオカブト(♂50.0 - 180.0mm)⇒シロカブト(♂40~70㎜)

②「東南アジアのアトラスオオカブト属」(「高地性種」⇒「平地性種」)

例:コーカサスオオカブト(♂60~120mm)⇒アトラスオオカブト(♂50mm~100mm)

参考資料3:「温度-サイズ則の適応的意義」によれば「より長期的な温度の変化に対する体サイズの可塑的応答として現在注目を集めているのが、地球温暖化に伴う体サイズの小型化の可能性である。これまで、温暖化は生物の分布域の高地や高緯度へのシフト(e.g., Beaugrand et al. 2002)や生活史の季節性(phenology)の変化(e.g., Walther et al. 2002)を引き起こすことが指摘されてきた。 これらの応答に続く第三の普遍的現象として、Daufresne et al.(2009)は外温動物の体サイズが種レベル・個体群 レベル・群集レベルで小型化することを指摘した」という。

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(左:一匹目オス(赤)約50mm、右:二匹目オス(茶)約70mm)

(3)恒温動物(哺乳類・鳥類)の「小型化」の根拠は「ベルクマンの法則」

「ベルクマンの法則」とは、「暑い気候帯では体熱を放出する効率を高くするため体が小さく、逆に寒い気候帯では体熱を保つため体が大きく進化する」という法則である。

wikipedia(フリー百科事典)によると、その理論は、以下の通りである。

①「恒温動物は、常に体温を一定に保つために体内では常に熱を生産している。体内での熱生産量はほぼ体重に比例し、放熱量はおおよそ体表面積に比例する。つまり放熱量は体長の2乗に、熱生産量は体長の3乗に比例する。これは、体長が大きくなるにつれて体重当たりの体表面積は小さくなることを意味する。いわゆる2乗3乗の法則の例の一つである」

②「温暖な地域では体温を維持するためには放熱を十分に行う必要があるから体重当たりの体表面積は大きくなければならず、小型であるほうがよい。逆に寒冷な地域では放熱は簡単であり、むしろ体温を維持するためにはそれを抑える必要があり、そのためには大型であることが有利となる」 

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(左:一匹目オス(赤)羽化後86日目。右:二匹目オス(茶)羽化後81日目)

6.「温度ーサイズ則」「ベルクマンの法則」の視点で見る「太古の地球温暖化

「温暖化 小型化」でネット検索すると、「変温動物」(魚類・昆虫類)の「小型化」に関する論文やニュースはもちろん、「恒温動物」(哺乳類・鳥類)の「小型化」に関する論文やニュースも多く検索される。

ここでは、その中から、科学者達が最も注目する「5600万〜5200万年前の太古の地球温暖化」、すなわち現在の気候変動に似ていると言われることが多い「暁新世・始新世境界温暖極大期(Palaeocene-Eocene Thermal Maximum、PETM)」を「温度ーサイズ則」「ベルクマンの法則」の視点で見てみよう。

(1)研究者「地球上のすべての化石燃料が燃やされると、地球の平均気温は2300年までに8℃上昇し、5600万〜5200万年前の始新世初期の気候に近い状況になる」

地球上のすべての化石燃料が燃やされると、地球の平均気温は2300年までに8℃上昇。海面上昇で北米大陸は3分の一に縮小、熱帯化する北極でワニが泳ぐ。カナダの研究チームが論文(National Geographic) | 一般社団法人環境金融研究機構

IPCCによる「今世紀末の気温上昇予測幅」は1.1〜6.4°Cである

「国立環境研究所 地球環境研究センター」(気候変化予測に幅があるのは? )によれば、『2007年に公表された気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)第4次評価報告書では「1980〜1999年平均と比較した21世紀末(2090〜2099年平均)の気温上昇を1.1〜6.4°Cと予測しています』

 ②来世紀以降の予測は?すべての化石燃料が燃やされると2300年までに8℃上昇

カナダの学者らによって科学誌「Nature Climate Change」(2016年5月23日付)に発表された論文によれば、

「地球上のすべての化石燃料が燃やされると、地球の平均気温は2300年までに8℃上昇し、大気中には5兆トンの炭素が増加。北極の平均気温は17℃も上昇する」
「これだけ気温が上昇すれば、アラスカにヤシの木が繁り、北極でワニが泳いでいた5600万〜5200万年前の始新世初期の気候に近い状況になるだろう」 

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(バナナのおかげで、一匹目オス(赤)は二匹目オス(茶)より元気になった)

 (2)研究者「5500万年前の温暖化では、数千年の間に甲虫類などの大きさが50~75%小さくなっていた」「昆虫類などの変温動物は温暖化の影響をダイレクトに受ける。気温が摂氏1度上がるごとに代謝が約10%活発になり、エネルギーの消費が増えた結果、小型化することを示唆する実験結果がある」

温暖化で一部の動植物が小型化、シンガポール大研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

シンガポール大学の学者らによって科学誌「Nature Climate Change」(2011年10月16日付)に発表された論文によれば、

「微生物から食物連鎖の上位にいる捕食動物まで85種の動植物のデータを検討したところ、45%近くが数世代を経るうちに小型化していた」
「化石資料は、気温が上昇した時代に海洋と陸上の両方で生物の大きさが徐々に小さくなったことを明らかに示していた」
「現在の気候変動に似ていると言われることが多い5500万年前の温暖化では、数千年の間に甲虫類、ハナバチ、クモ、カリバチ、アリの大きさが50~75%小さくなっていた。リスやモリネズミなどの哺乳類も約40%小型化していた」
「現在の温暖化のペースは、この暁新世・始新世境界温暖極大期(Palaeocene-Eocene Thermal Maximum、PETM)当時よりもはるかに速く、多くの生物種で小型化が始まっている」
「昆虫類などの変温動物は温暖化の影響をダイレクトに受ける。気温が摂氏1度上がるごとに代謝が約10%活発になり、エネルギーの消費が増えた結果、小型化することを示唆する実験結果がある」 

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(復活した一匹目オス(赤)はコバエ防止用キッチンペーパーまで破り始めた)

(3)研究者「現在のCO2排出ペース、「温暖化極大期」の10倍」

現在のCO2排出ペース、「温暖化極大期」の10倍 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

ペンシルベニア州立大学の学者らによって英科学誌「ネイチャージオサイエンス(Nature Geoscience)」(2011年6月5日付)に発表された論文によれば、

「現在、地球の大気に二酸化炭素(CO2)が放出されるペースは、5600万年前に地球の気温が5度以上上昇した「温暖化極大期」と比べて10倍に達している」
「国連(UN)の科学者らは、CO2排出が大幅に削減されなければ、地球の平均気温は2100年までに4~5度上昇しかねないと指摘している。つまり、PETMのときに千年単位で起きた気温上昇が、百年単位で急激に起こる」
「PETMを気候変動における『圧迫』と見なし、恐竜を絶滅させた1000万年前の隕石衝突を『一撃』と呼ぶとしたら、現在われわれが直面している状況は圧迫というよりも一撃に近いだろう」 

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(もう10月なので、室内飼育にしたほうが・・。でも、家族の許可が下りない)

(4)研究者「約5600万~5200万年前の「温暖化」終息メカニズムの証拠をインド洋で発見」

 「超温暖化」終息メカニズムの証拠をインド洋で発見 東大など :日本経済新聞

 東京大の学者らによって英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(2017年9月12日付)に発表された論文によれば、

  「急激な気温上昇を伴う「超温暖化」が約5600万~5200万年前に繰り返し起こり、そのたびに海のプランクトンの光合成が活発になって大気中の二酸化炭素(CO2)を減らしてきたことを示す証拠をインド洋の堆積物から発見した」
「地球には温暖化をやわらげる自浄作用があるが、現代の温暖化はかつてよりスピードが速く、同じような自浄作用が効くかどうかはさらなる研究が必要」 

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 (毎日の掃除。洗浄後は天日干し。慣れれば全く苦にならないから不思議だ)

7.「地球温暖化」の影響は「生物への影響」で比較すると実感しやすい

東京の「年間気温の振れ幅」は毎年約40℃もある(昨年39.4℃、今年43.0℃)。だから「地球温暖化で100年間に1.1〜6.4°Cの上昇」にどのような意味があるのか?そう思ってしまうのも無理はないだろう。「地球温暖化」の影響は、気温で比較すると実感しにくい。しかし、「生物への影響」で比較すると実感しやすい。

①昨年の東京の気温(年平均気温15.8℃、最高気温37.1℃、最低気温-2.3℃)
  「気温の振れ幅」は37.1℃ー(-2.3℃)=39.4℃
②今年の東京の気温(年平均気温:未定、最高気温39.0℃、最低気温-4.0℃)
  「気温の振れ幅」は39.0℃ー(-4.0℃)=43.0℃

 参考資料1:「昆虫の温度反応と分布域の変化」

http://www.jppa.or.jp/shiryokan/pdf/64_07_01.pdf

参考資料2:「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版」

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/publish/bulletin/niaes31-1.pdf

参考資料3:「温度-サイズ則の適応的意義」

温度-サイズ則の適応的意義

「国立環境研究所 地球環境研究センター」(温暖化と生物の絶滅)

温暖化の影響 Q10 温暖化と生物の絶滅 - ココが知りたい地球温暖化 | 地球環境研究センター

「国立環境研究所 地球環境研究センター」(気候変化予測に幅があるのは? )

温暖化の科学 Q18 気候変化予測に幅があるのは? - ココが知りたい地球温暖化 | 地球環境研究センター