カブトムシの幼虫、さなぎの育て方2018年

虫好きな猫たちのために、ベランダでカブトムシの幼虫を育てる悪戦苦闘の物語

カブトムシの幼虫の季節的垂直移動「屋外幼虫飼育の場合、10月下旬以降はマットの深さは30~40cmは必要」(天国の1匹目(赤)「遅いな~2匹目(茶)、”後からすぐ行くよ”って言ってたのに・・」猫達「2匹目(茶)が冬眠しそうだニャン」2匹目(茶)「ごめんよ1匹目。ベランダから室内へ引っ越した。居心地良いから、もうしばらくこっちにいる!」天国の1匹目(赤)「そんなバナナ!」)

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(ベランダから室内へ引越した2匹目オス(茶)約70mm 羽化後97日目)

1.土壌昆虫の「季節的垂直移動」

カブトムシの幼虫をベランダ等で屋外飼育している家庭も多い。その際、注意してほしいのはマットの深さである。10月下旬以降は30~40cmは必要である。カブトムシは、コガネムシ科(コウチュウ目・コガネムシ科)であり、クワガタはクワガタムシ科(コウチュウ目・クワガタムシ科)である。カブトムシやコガネムシ等のコガネムシ科の幼虫は土壌に生息し、秋と春に「季節的垂直移動」を行う。

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(全て空になった100均で購入したベランダ飼育用ミニケース)

(1)「最低発育限界温度10℃」とカブトムシの幼虫の「季節的垂直移動」

今月上旬は”10月2度の真夏日”(140年間で4回目)があったが、台風が去れば、気温は元の下降トレンドに戻る。秋分(9/23)以降、昼夜の長さは逆転し、昼間の時間は毎日短くなっている。天気予報によると今週末(10/20)、東京の気温は12℃まで下がる。 昆虫一般の最低発育限界温度は10℃である。したがって自然界のカブトムシ等のコガネムシ科の幼虫は、10月下旬になっても雑木林の土壌(腐葉土等)の表層に居たら、これ以上発育は出来ない。発育出来たとしても3齢幼虫になれない可能性がある。秋のうちに1齢幼虫→2齢幼虫→3齢幼虫となって冬の休眠(冬眠)に備えたい自然界のカブトムシ等のコガネムシ科の幼虫にとっては、晩秋(11月)まであと少し発育を続けたいところだ。そのため、自然界のカブトムシ等のコガネムシ科の幼虫は、10月下旬以降、気温の下降トレンドに従って、雑木林の土壌(腐葉土等)の表層から深層へ移り始める。

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(カブトムシ4匹が幼虫時代を過ごした猫達観察用ケース。これをまた再利用)

(2)「コガネムシの幼虫の場合」は、10月下旬以降「地温が14~17℃で、表層の地温が下層の地視より低くなる場合」に下降移動を始める

カブトムシの幼虫は、腐葉土や朽木を食料とし、コガネムシの幼虫は苗木の地下部を加害する。このように、コガネムシの幼虫は害虫として扱われるため各種研究機関による調査結果も豊富に存在する。一方、カブトムシの幼虫は無害虫として扱われるためだろうか?各種研究機関による調査結果は皆無に等しい。しかし、カブトムシもコガネムシも同じコガネムシ科である。そこで、コガネムシの「季節的垂直移動」の調査結果を基に、カブトムシの「季節的垂直移動」を考察してみる。「コガネムシの幼虫の場合」は、10月下旬以降「地温が14~17℃で、表層の地温が下層の地視より低くなる場合」に下降移動を始める。

参考資料1:「コガネムシ類幼虫の生態ならびに薬剤防除に関する研究」によると、『本州において,コガネムシ類幼虫は秋10月ごろより翌春 3 月ころまでの冬季間は,地表より10-20cm の深さに最も多く棲息・越冬しているが, 4 月ころか上方に移動を開始し, 4~9月ころまでは0~10cm の棲息密度が最も高い。かかる幼虫の季節による垂直移動は,幼虫の趨温性によるものと考えられ,春季は地温が10~20℃で,土壌の表層と下層の地温がほぼ等しくなるか,または表層の地温が下層の地温より高くなる場合,上昇移動を開始する。また秋季は地温が14~17℃ で,表層の地温が下層の地温より低くなる場合,下降移動をはじめ,凍結線以下に降下して越冬を行う』という。

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(10年前に100均で購入した古い収納ケースだが、まだ役に立ちそうだ)

(3)「コガネムシの幼虫の場合」は、10月下旬以降の棲息深度は「0~40cm」

また、参考資料1によると、コガネムシの10月下旬以降の棲息深度は0~40cmである。カブトムシの幼虫はコガネムシの幼虫より大きいので、カブトムシの幼虫をベランダ等で屋外飼育する場合は、マットの深さは10月下旬以降は30~40cmは必要であろう。

参考資料1:「コガネムシ類幼虫の生態ならびに薬剤防除に関する研究」によると、『コガネムシ類幼虫の春秋 2 回にわたる棲息深度の変化は,著者らの周年調査においても認められ,10月下旬以降は表土より下方に移動する幼虫数が多くなり ,10~20cmの棲息数が最も多く,ついで 0~10cm および 20~30cm が多く, 30~40cmはきわめて少ない状態で越冬する。春季の上方移動は概して 4月からであるが,温暖な地方または温暖な冬は 3 月下旬から上方に移動を開始し ,0~10cmに多く棲息し摂食加害を行う』 

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 (1匹目オス(赤)が亡くなる直前に”大人買い”してしまったマットを大量投入)

 (4)今週末(10/20)に予想される東京の「各深度の地温」

このように、「コガネムシの幼虫の場合」は、10月下旬以降「地温が14~17℃で、表層の地温が下層の地視より低くなる場合」に下降移動を始める。天気予報によると今週末(10/20)、東京の気温は12℃まで下がる。それでは、今週末(10/20)の東京の「各深度の地温」を予想してみよう。特に「4~9月ころまでは棲息密度が最も高いとされる深度0~10cm」の地温が「14~17℃」になるのか考察してみよう。

9/7ブログ「カブトムシの大きさの秘密③」で考察したように 「地温」は、地表に近いほど「気温」の影響を受け易く、深くなるほど影響を受けにくい。したがって、秋から冬にかけて気温の下降トレンドが続くこの時期は、秋分(9/23)を境に「各深度の地温」は深くなるほど暖かくなる。

参考資料2:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」の国立科学博物館附属自然教育園(東京都港区白金台五丁目)の例では、気温との温度差は、5cm深1.6℃、10cm深2.0℃、30cm深3.3℃、50cm深4.1℃であった。したがって、今週末(10/20)に予想される東京の気温と「各深度の地温」は以下の通りである。

  例:国立科学博物館附属自然教育園(東京都港区白金台五丁目)
2018年10月20日  気温   5cm深   10cm深  30cm深  50cm深
最低(予想)   12.0℃   13.6℃  14.0℃  15.3℃   16.1℃
平均(予想)   15.5℃   17.1℃  17.5 ℃  18.8℃   19.6℃
最高(予想)   19.0℃   20.6℃  21.0 ℃  22.3℃   23.1℃

このように「4~9月ころまでは棲息密度が最も高いとされる深度0~10cm」の今週末(10/20)に予想される最低地温は13.6~14.0であり、これは参考資料1の「地温が14~17℃」に該当する。また「各深度の地温」は5cm深<10cm深<30cm深<50cm深であるから「表層の地温が下層の地温より低くなる場合」にも該当する。やはり今週末(10/20)から、自然界ではカブトムシの幼虫の季節的垂直移動が始まりそうである。 f:id:chart15304560:20181016093902j:plain

(先に亡くなった3匹分の炭木も全て投入。昆虫ゼリーも沢山残っているので投入)

 (5)「季節的垂直移動」の理由=「趨温(すうおん)性」

参考資料1では「幼虫の季節による垂直移動は,幼虫の趨温性によるもの」であるという。「趨性(すうせい)」とは、「生物がある刺激を受けた時に、刺激源に向かって屈曲、あるいは移動する性質」である。したがって、「趨温(すうおん)性」とは、「温かい場所へ向かって屈曲、あるいは移動する性質」である。

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(夜間はカブトムシの活動時間。キッチンペーパーを挟むと掃除の手間が省ける)

(6)「変温動物」である昆虫は「発育」に必要な「外気温」を求めて移動する

生物の「発育」は、体内で起きる「化学反応」であり、「化学反応」の速度は、普通10℃の差で2~3倍変わる。従って、一般的に「生物の発育速度」は「温度」に比例し、10℃上昇するごとに2~3倍に増加する(温度係数Q10=2~3)。気温が1℃上昇するごとに発育や活動に必要な代謝が約10%活発になる。

特に、「変温動物」である昆虫は、「恒温動物」である哺乳類や鳥類と違って、「発育」に必要な「温度」を自ら作り出し調整する事は出来ない。そのため、昆虫の「発育」は、「外気温」に大きく左右される。カブトムシの幼虫の「発育」に影響を与える「外気温」は「地温」であるから、カブトムシの幼虫は、「発育」に必要な「地温」を求めて移動する。

「カブトムシの大きさの秘密③」で述べたように「各深度の地温は、昼夜の長さが等しくなる春分秋分の頃に「表層=中層=深層」となり、「春から夏にかけての気温上昇」に伴い「表層>中層>深層」となり、「秋から冬にかけての気温低下」に伴い「表層<中層<深層」となる。

したがって、カブトムシの幼虫は、「発育」に必要な「地温」を求めて、「春から夏にかけての気温上昇」期は、「深層より温かい表層」へ移動し、「秋から冬にかけての気温低下」期は、「表層より温かい深層」へ移動する。これが土壌昆虫の「季節的垂直移動」の理由である(「趨温(すうおん)性」)。

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(夜間は飼育ケースの中に部屋の照明が差し込まないように段ボールの中へ)

 2.”秋のカブトムシ”の「季節的水平移動」(ベランダから室内へ引越し)

(1)昆虫は一般に気温が10℃を下回ると「発育」や「活動」は困難となる

幼虫は、食料を消化し、「発育」に必要な物質に変える「物質代謝」を行っている。成虫は、幼虫と違ってこれ以上「発育」はしないが、食事・排泄・移動・交尾等の「活動」は行っている。成虫も幼虫も食料を消化し、食事・排泄・移動等の「活動」に必要なエネルギーに変える「エネルギー代謝」を行っている。しかし、昆虫はこのような「物質代謝」「エネルギー代謝」に必要な「温度」を自ら作り出し調整する事は出来ない。そのため、昆虫の「発育」や「活動」は「外気温」に大きく左右される。

昆虫一般の最低発育限界温度は10℃であるから「外気温」が10℃を下回ると「発育」や「活動」は困難となる。カブトムシの幼虫の場合は「外気温」は「地温」であるから「地温」が10℃を下回るとカブトムシの幼虫の「発育」や「活動」は困難となる。カブトムシの成虫の場合は「外気温」は「気温」であるから「気温」が10℃を下回るとカブトムシの成虫の「活動」は困難となる。

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(炭木に”登る”と言うより、”ぶら下がる”のが精一杯の2匹目オス(茶))

 (2)”秋のカブトムシ”のベランダから室内へ引越し(「季節的水平移動」)

上記の通り、今週末(10/20)から、自然界ではカブトムシの幼虫の「季節的垂直移動」が始まりそうである。カブトムシの幼虫は10月下旬から「発育」に必要な「地温」を求めて土壌の表層から深層へ移動する。

ベランダ飼育の”秋のカブトムシ”である2匹目オス(茶)も、「気温」が10℃以下に下がると、食事や排泄等の「活動」が出来ずに死んでしまう。そこで今週から「活動」に必要な「気温」を維持するために、2匹目オス(茶)をベランダから室内へ引越した。カブトムシの幼虫の「季節的垂直移動」に例えるならば、”秋のカブトムシ”の「季節的水平移動」である。

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(左後ろ足が宙に浮いている2匹目オス(茶)。左後ろ足が不調のようだ)

(3)2匹目オス(茶)の様子

1匹目オス(赤)は、10/9に羽化後95日目で寿命が尽きた。2匹目オス(茶)は、今日(10/16)で羽化後97日目を迎えた。したがって、1匹目オス(赤)より2日寿命を延ばしている。但し「毎日の健康診断チェック」では、半分、アラートが出ている状態だ。食も細り、左後ろ足も不調のようだ。ベランダから室内へ引越したといっても最低気温対策に過ぎない。1匹目オス(赤)のように、いつ生命反応を停止してもおかしくない状態だ。

①夜間は、マットの上に出て活動していること(食事・排泄など)⇒〇。
②木にしがみつく力が強いこと(体力)⇒△。
③日中は、マットの下に潜っていること(休息・太陽光や熱の遮断)⇒×。

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(天国の1匹目(赤)「遅いな~2匹目(茶)、”後からすぐ行くよ”って言ってたのに・・」)

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(2匹目オス(茶)「ごめんよ1匹目。ベランダから室内へ引っ越した。居心地良いから、もうしばらくこっちにいる!」)

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(天国の1匹目(赤)「そんなバナナ!」) 

参考資料1:「コガネムシ類幼虫の生態ならびに薬剤防除に関する研究」

      (林業試験場研究報告第 91 号)

森林総合研究所研究報告 (1-100)

参考資料2:「自然教育園内の深度別地温観測 (2010年~2016年)」

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